話を戻そう。前述したcanarino2は、明らかに後者に当てはまる機器なのだ。音質向上のために余計な入出力系が気持ちよくカットされており、推奨仕様では音声出力がデジタルのみとなっている。要するに、オーディオの世界でもかなりストイックなカテゴリである「トランスポート」系の製品である。
ここまで絞り込まれた単機能の構成ながら、標準構成時で49万8000円、特別仕様モデルで69万8000円とする価格は一般PCユーザーからすると不思議に思うだろう。もちろん、アナログ出力が可能な増設カードに変更すれば手軽に「音楽プレーヤー」にキャラクターを変えられる自作系PCならではの特性こそ残ってはいるが、そうといってもそれほど高速・高性能とはいえないCPUをはじめ、音質のためにグラフィカルさを徹底排除し、XPよりもシンプルな表示となるカスタマイズ変更済みのWindows 7のデスクトップ画面など、PCの一般的な機能/用途はこの際どうでもよく、すべてが音質のために作り上げられた特殊な存在であることに変わりはない。
そのサウンドを聞いた筆者としては、オーディオ製品としての確かな価値を見出せた。ただ、それ以外には求めていけないストイックな存在であるとも確信した。それをふまえつつ、オーディオ機器としての改良要望点も浮かんでくる。特に気になったのが操作性だ。プロ用機器ならまだしも、コンシューマー向け製品だとするならばかえってPCを意識させない操作感やメニューが必要となるだろう。
PCオーディオ利用層はかなり広がっているが、こういったハイエンドのオーディオ機器を望む層はPCそのものにはさほど詳しくない人だろうと思う。それならば、OS画面は見せず、例えばiPadやAndroidタブレットなどであらかた操作できるようにする──といった工夫をしてくれるのが理想だと思った。
そんなことを考えていると。オーディオPCの未来がおぼろげながらも想像できるようになった。
まず「音のよいPC」は、PCの仕様変遷にあまり振り回されない、安定した高音質を提供できるようにすることが重要。その点、周辺機器で工夫できる現在のUSB DACやネットワークプレーヤーを用いるスタイルはちょうどよい展開方法だろう。PC本体のオーディオ能力に頼らず、できるだけ周辺機器のクオリティで音質を向上させていくのがこれからも効率的な方法論となる。
もしPC本体に何かを求めるとすれば、電源まわりにノイズの少ない優良な部品を使った製品を選ぶことなどがオーディオPCとしてのこだわりとなるだろうか。もっとも、こういった部分は偶然性が大きいので(※いわゆるPCとしてのスペック表には、特別なものでない限りそのような情報はおそらく今後も載らない)、なかなか最良な法則性を見つけられないのが今後も課題として残り続ける。
いっぽう「PCベースのオーディオ機器」のほうは、PCであることを感じさせない製品に仕立てることが重要なポイントとなりそうだ。特に操作性は重視すべき項目である。
そういった点で「canarino2」はとても存在意義のある製品だ。操作性に関してははっきり言って標準状態では使いにくいが、そこはPCならではのメリットを生かしていくらかは工夫できるし、こと音質に関してはいまでも十分以上のすばらしいクオリティを提供している。
今後、オーディオPCがどういった展開を見せるか。その動向は今後も追い続けたいところだ。
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