iPhoneの体験を加速する「iOS 8」――ユーザー主体の時代へ林信行のWWDC 2014ポイント解説(3/3 ページ)

» 2014年06月04日 00時00分 公開
[林信行,ITmedia]
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ついに実現したiOS版機能拡張

写真フィルタの機能拡張例。対応アプリから同機能を利用できるようになる

 さて、WWDC 2014で意外と大きな発表の1つが、iOSによる「Extension」(機能拡張)のサポートだ。

 これまでiOSデバイスは、サードパーティ製のソフトウェアは、アプリという形での提供しか認めていなかった。アプリというのは自己完結したソフトのことだ。これに対して機能拡張というのは、ほかのアプリと連動するソフトのこと。

 例えば、写真に特殊効果を加えるフィルターの機能拡張をインストールすれば、それを使って機能拡張に対応したほかのアプリでも、その特殊効果が利用可能になる。Waterlogueという写真を水彩画風に変えてしまうアプリが機能拡張として提供され、Twitterアプリなどがこうした機能拡張に対応してくれれば、写真を投稿する前に水彩画風に加工できる。

 機能拡張にはいくつかの種類があるが、多くの日本人が期待しているのが他社製キーボードだろう。

 iPhone標準の日本語キーボードはかなりできがよく、電車などでもあれを使ってかなり高速で長文メールを書いたり、LINEのやりとりをしている人も見かけるが、パソコンなどで使いなれた他社製の漢字変換プログラムなどを利用したいという人もいるし、自社の漢字変換プログラムをなんとかiPhoneに提供したいと奮闘を続けてきた会社もいくつかある。

 かな漢字変換だけではない、タブレット用の非常に認識率が高い手書き文字認識アプリを出している会社もあれば、キーボードで英単語を一筆書きでなぞるだけで高い精度で入力してくれる英文キーボード技術もある。

 国内向けの話題では、すでにiOS用に手書き文字認識のアプリを提供していたMetaMojiも「iPadを初めて手にした時からiOS上での手書き入力IMEの実現を、熱望しておりました。(中略)今秋のiOS 8リリース開始に合わせて、mazec入力をIMEとしてすみやかに提供できるように準備を進めて参りますので、ご期待ください」というコメントを出している。

 つまり、いつも愛用しているiOSの標準のメール機能はもちろん、マイクロソフトが最近出したOffice for iPadなどの他社製品でも、これまでのiPad標準の日本語/英語キーボードの代わりにMetaMojiが提供するmazecと呼ばれる手書き文字認識ソフトの記入欄を表示させ、そこにスタイラスペンなどを使って文字を手書きして文章を入力できるようになるということだ。

 iOS 8の機能拡張対応で、こうした他社製キーボードがついにiOSにやってくる。

iOS 8では他社製キーボードも利用できるようになる。写真は「Swype」の例

 中には、何でこれまで待たせたのか、という人もいるかもしれないが、これまた「ユーザー主体」の考えによるものだ。

 スマートフォンやタブレットは、極めて個人的なデバイスである。場合によっては大事なメールのパスワードや、クレジットカード番号とひもづいた情報を打ち込むこともある。アップルはこうしたプライベートな情報が危険にさらされないように細心の注意を払った。

 例えば、他社製キーボードにしても、一切、インターネット通信は行なわないようにするなどの制限が加えられている。最近、ある会社のパソコン用かな漢字プログラムが、キー入力した情報をすべて海外のサーバに送っていたという騒ぎがあったが、こうしたプログラムが出てくると、知らないあいだに大事なパスワードやクレジットカード番号が誰かに盗まれてしまう可能性もある。

 だから、そうならないように、アップルは根本部分から徹底してセキュリティの確保に全力を尽くし続けてきた。同社はそのことを誇るように、WWDC 2014講演中のスライドでスマートフォン用マルウェア(悪さをするソフト)の99%はアンドロイド用だという統計を紹介している。iPhone/iPadはあれだけ膨大な台数が売られ、120万本のアプリがリリースされているというのに、セキュリティもしっかりしており、ユーザーが安心して重要な情報を預けることができる機器になっていることがアップルとしても何よりも誇らしいようだ。

 WWDC 2014に関しては、これからさまざまな場所で、いろいろな情報を目にすることだろう。筆者もWWDCリポートはこれで終わりではなく、まだ執筆する予定だ。今回発表された製品は、数だけをとると、OS X YosemiteとiOS 8のたった2つだけだが、その中で紹介された技術はとてつもなく多く、その1つ1つが持つ意味の深さについても簡単には語ることができない。

 だが、その大量の発表の渦の中から、1つだけ最も大事なエッセンスを取り出そうと苦労しているとき、「デバイス主体の時代からユーザー主体の時代へ」という、全体を貫くコンセプトが浮かび上がってきた。

 みなさんには共感いただけただろうか。

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