このように日本市場の実態とOfficeという製品の実態が乖離(かいり)したことで表出した問題の1つが、前述した「Office for iPadが日本でのみ使えない」といった結果だった。
日本以外では、個人向けに「仕事で使えるOffice」のニーズがほとんどない。PIPCが普及しているのが日本だけということもあるだろう。このため、ワールドワイドで展開するOffice 365には「仕事に使ってもよい」個人向けに、リーズナブルな価格設定のサービスメニューがない。これも日本市場の実態との乖離をさらに広げる原因である。
このように問題を整理すると、Office Premium(それに日本の個人向け商品として設計されたOffice 365 Solo)の意図が見えてくるのではないだろうか。
Office Premiumは、Office 365を「Windows用Officeアプリケーション」と「Office 365からWindows用アプリケーションを除いたもの」に分離し、前者をPIPC版に準ずる利用規程にしたうえで、後者をOffice 365の個人向けライセンスに準ずるものにした特殊な商品ということになる。
このニュースに注目していた方なら承知と思うが、Office PremiumのうちのWindows用Officeアプリケーションは(PIPC版に準ずるライセンスのため)、導入されているPCを使い続ける限り有効なもので、たとえ「Office Premiumのうちの加入型サービス契約部分」が失効しても使い続けることができる。
ここで「準ずる」というのは同じではないからで、Officeのバージョンは無料で最新のものに更新できる。もし1年で終了するOffice 365の加入型サービスを更新するつもりがなくとも、アプリケーションとしてのOfficeは最新版に保つことができるわけだ。Microsoftにとってもサービスとソフトウェアを一体化している中で、複数バージョンのOfficeが混在する不都合を減らすこともできる。
おそらく日本以外では不要なライセンス形態だが、冷静に評価してみてかなりお得なパッケージ内容になっていると思う。もちろん、PIPC版Officeを付属したPCの価格が従来と大きく変わらなければの話だが、明日発売されるOffice Premium搭載PCの価格トレンドを見る限り、それらは杞憂(きゆう)と言える。
いずれにしろ、これで「日本だけが取り残されている」ように感じる状況は解消されるだろう。Officeに限った話ではないが、Microsoftは「デバイス&サービス」の会社になろうとしている。サービスとしてソフトウェアの価値を届けようとする限り、加入型ビジネスモデルへの移行は不可欠なものだ。
PIPC版の「PCに紐付くライセンス」を残しながら、それでも加入型モデルの利点を顧客に提供できたのは、なかなかのアイデアだと思う。しかし、今回のアイデアがワールドワイドに広がっていかなければ、常に日本向けの枠組みを特別に考慮する必要が出てくる可能性もある。そのときに、Office Premiumのケースほどうまく提案がハマるかどうかは分からない。
もっとも、課題は残るが、今回ばかりは日本マイクロソフトのファインプレーとも言える商品企画に拍手を送ってもよいだろう。Officeを仕事に使いたい日本の個人ユーザーにとって、今回のライセンスほどお得感のあるものはない。
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