休めない日本人のために、“正しいサボり方”教えます――。そんな内容の研修が3月2日、とある企業の社内で実施された。企画したのはサイコロ給やエゴサーチ採用など、独特の人事制度で知られるカヤックだ。
講師に「休む技術」などの著作で知られる米スタンフォード大学の西多昌規氏を招き、会社公認のサボり方や、仕事中の切り替えの仕方についてさまざまな知見が語られた。
サボるという言葉はもともと、フランス語のサボタージュ(破壊活動)から来ている。わざと機械を壊したり仕事を停滞させたりして、経営者に損害を与えることで、別の問題の解決を図る一種の労働争議だったわけだ。
しかし、西多氏は現代でのこの言葉の意味をこう定義する。いわく「過重労働の割に効率がさっぱり上がらない日本の労働環境をサバイバルするため、有志が独自に編み出した生存戦略」。
「“風邪でも絶対休めないあなたへ”というメッセージで、風邪薬のCMが流れている国が日本。でも本来は風邪をひいたら休むのが当然で、こんな国は他にない」(西多氏)。国際的に見ても低水準な日本の有給取得率などのデータを挙げ、適切に休むことの重要性を説く。
しかし、「国の制度が〜とか、企業の文化が〜とか、大きな話をしても事態はなかなか進まない」。そこで、個人ができる上手な休み方を「正しいサボり方」として紹介しているわけだ。
スタンフォード大で睡眠や生体リズムについて研究する西多氏は、「サボったほうが仕事がはかどる理由」を科学的根拠や実際の論文を例に挙げて説明していく。
例えば、「クリップの本来とはまったく異なる使い方を発明してください」というクリエイティビティを測るテストでは、2回に渡って同様の実験をし、実験と実験の間に異なる4つの条件を設けて結果を観察した。
その結果、最もクリエイティビティが発揮されたのは「どうでもいい作業」をした場合で、「きつい作業」をした場合と「ただの休憩」とではあまり差が見られなかったという。これは「テスト前になぜか部屋の掃除を始めてしまうあの現象」とよく似ているそうで、「ずっとどうでもいいことだけをしていてもまずいが、ほどよくやれば気分転換になり、本来の仕事にも良い影響がある」とのこと。
「効果的な休息がパフォーマンスに影響するという、エビデンスレベルが高い研究は山ほどある。サボるにしてもただサボるのと、正しいサボり方を知っているのでは結果が違ってくる。休日にテレビを見ながら一歩も外に出ない、といった方法はむしろ良くない」(西多氏)
正しいサボり方の具体的な方法としては、以下のような例を挙げる。
身体を動かすと疲労因子FF(fatigue factor)と疲労回復因子FR(fatigue recovery factor)が生成されるが、適度な運動をすると疲労回復因子FRの方が多く生成される。
日本の労働環境では、平日になると休日を計画する余裕も意欲もなくなる。「サザエさん症候群」にならないために、次の休暇を前向きに考える「情熱大陸」的なスタンスで。
ブルーライトカットメガネや疲労回復用のコンプレッションウェアなど技術で解決できる部分は活用し、効率的に回復する。
研修の最後には、カヤック社員による「メンバー全員がやりたくなる、健康でいられるアイデア」のブレストが行われた。
前日にいきなり「明日、あなた休んでね」と宣告される「どっきり休暇」、寝ている間に思いついた仕事のアイデアに残業代を支払う「夢残業」、ジムのランニングマシンのように床が常に動いており、走りながら会議が行える「動く会議室」など、同社らしいユニークなアイデアがいくつも飛び出した。
カヤックの柳澤社長は自身のブログで「『健康経営』、若干流行りのキーワードである感じは否めません。また、健康領域のビジネスへの注目度が高いのもご存知の通りです。ただ、今は流行りだとしても一過性のものではなく、人間の営みの中においては不可逆的なものの一つであると思います。」とし、今後さらに健康経営に注力していくことを宣言している。
その一環として同社人事部では、ウェアラブルデバイスによる社員の健康管理の試験運用なども予定しており、「Jawbone UP3」の導入を検討しているという。
「管理といっても、一概に『睡眠時間は8時間!』とか、そういった運用はしません。まずは1人1人が自分の健康について数字で把握し、『これをやったから数字が上がった、これをやったら下がった』と把握できる手助けになれば良いと思うんです。“健康のABテスト”というか。そこはやっぱり、Webの企業ですから」
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