ダンボール、と聞いてあなたが連想するのは何だろうか。人によっては、お金で動くロボット型スーツを思い浮かべるかもしれないが、おそらくほとんどの方は、宅急便や引っ越しで使う包装資材だろう。
19世紀イギリスで生まれたダンボールは、波状の多層構造により軽さと強度を両立することから、ご存じの通り現代でも広く利用されている。その最たる用途が先に挙げた包装資材、つまりダンボール箱だ。たいていの買い物をAmazonに依存している筆者の部屋も、気づけばダンボールだらけになっていたりする。
国内ダンボールの生産量をみると、いわゆる“リーマンショック”で一時的に数字が落ち込んでいるものの、ほぼ100%前後で推移している。非常に安定した市場だが、これは裏を返せば成長していないともいえる。
そのダンボール業界で、従来の「茶色い箱」というイメージを壊し、新しいビジネスの創出に取り組んでいるのがダイナパックだ。同社は国内で初めてHPのダンボール用デジタル印刷機「HP Scitex 15500」を導入し、この3月から稼働させている。同社川越事業所を見学した。
ダイナパックは、ダンボールをはじめ、印刷紙器や軽包装材、紙製緩衝材などの包装資材を開発・販売している。「カゴメ」など大手食品・飲料メーカーの包装資材も手がけており、知らずにダイナパック製の製品を利用したことがある人も多いだろう。
ダイナパックの主力事業は全体の売り上げの約64%を占めるダンボール事業だ。同社代表取締役社長の杉山喜久雄氏は「ダンボールは違いを見せるのが難しい」と話し、ダンボールの用途が輸送や物流で利用される「運搬用の箱」として固定化されているために市場成長が見込めないと指摘。今後は新たな用途を開発していく必要があるとして、HP Scitex 15500の導入に至った経緯を説明した。
HP Scitex 15500は、最大3200×1600ミリの大判印刷が可能なデジタル印刷機で、6色インク(CMYK・LC・LM)によるオフセット印刷並の美粧性や、版が不要なことから小ロット生産かつ短納期を実現できるのが特徴だ。
杉山社長は「HP Scitex 15500は現在のダンボール業界が不得意とする部分をすべて備えている」と述べ、今後はダンボールのデジタル印刷を武器に、店頭POPやディスプレイ、ペット用品、オリジナルギフトなどの新規分野を開拓していくとした。「ダンボール業界にイノベーションを起こす」(杉山氏)
同日行われた見学会では、米HPのJeff De Kleijn氏(HP PPS Asia Pacific Pte.Ltd Director&General Manager)も登壇。同氏は、あらゆる市場でデジタル化が進む中、印刷業界も例外ではないと述べ、特にパッケージ分野ではデジタル印刷が強く求められていると説明した。
「パッケージの役割は従来の輸送(のための箱)から販促ツールへと変化してきた。例えば、スーパーの売り上げの25%はプライベートブランドで占められ、それは客の増加を上回る速さで増加している。その中でブランドはいかに顧客の注目を集められるかが重要だ。また、スーパーに来店する消費者の76%は、売り場で購入する商品を決定している。店頭に並ぶパッケージは無言のセールスマンとして、最も効果的なマーケティングになる」とKleijn氏。多様かつタイムリーなパッケージ製作を可能にするデジタル印刷の強みをアピールした。
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