iPhone誕生10周年に見た「macOS」「watchOS」「tvOS」の進化(5/5 ページ)

» 2017年06月21日 19時19分 公開
[林信行ITmedia]
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WWDC 2017から見えてきた、Appleのこれから

 WWDC 2017からはこれからのAppleを占ういくつかの傾向が見えてきた。

 1つ目は「Siriインテリジェンス」。これからiOS、watchOS、そしてmacOSの標準機能や他社製アプリでもAI的なインテリジェンスが重要な役割を果たし始める。今、IT業界全体があらゆるものを機械学習させ、コンピューターに認識させ、操作をしなくてもプリエンプティブに(つまりユーザーの次の動きを予想して)提案してくるように進化しつつある。

 ただし、Appleが他社とは違うのは、この部分で非常にプライバシーに配慮をしていること。このため他社が提供しているコグニティブ系機能、インテリジェンス系機能と比べて提供している機能が少ない印象はある。だが、これは機械学習に限らずこれもそうだったと思う。

 なんでもやりすぎて、とにかく真っ先に作ればいいのではなく、万人のユーザーに役立つ形にブラッシュアップできるまで丁寧に社内で熟成させてから機能を出す。このしっかりとしたデザインのプロセスは、やたらと最初から高解像度に走らなかったiPhoneのデジタルカメラ機能や動画機能、極めてシンプルな形で誕生したiOSのメモ帳、ユーザーにしっかり定着するのを待って今回ようやくApple Pay以外への応用(Apple Watchとエクササイズ機器とのペアリング)を取り入れたNFCの活用など、ある意味、非常にAppleらしいやり方であって、他のメーカーとは違う部分だ。

 2つ目は、上にも重なるが徹底した「プライバシー」重視の姿勢で、Safariで新たに採用された「インテリジェント・トラッキング・プリベンション」で、現在の広告収入を頼りにしているITビジネス全部を敵に回すような発明にも思えるが、それでは実際に個人の日常を振り返ってみて、これまでのトラッキング広告が快適だったかといえば、むしろ不快な部分も多く、嫌う人も多かった。

 Safariという非常に大勢が使うWebブラウザの影響力をうまく活用し、AdobeのFlashの問題を訴え、徐々にその認識を業界全体に広めていったAppleらしいやり方で、この技術によって今後、より心地よく過ごせるWeb媒体が増えてくるかもしれない。ちなみにこれからの時代のWebメディアのあり方としては、新しいApp Storeがその1つの形を提示しているのではないかと思う。

 3つ目は、多様化するワークスタイル。今回のiPad Proの仕様変更はあきらかにプロフェッショナルユーザーの仕事での利用に焦点を絞っていた。現在、Adobeのツールが充実してきたこともあり、プロのクリエイターがiPad Proを使って最先端の創作をすることが可能になっている。

 Appleはその傾向がさらに進むように、ある意味、Macの領域に食い込むような形でiPad Proを進化させている。一方で同じクリエイターでも、マシンに性能やキャパシティーの大きさを求めるユーザーには、まだMacに分がある。Appleはその違いもきちんと理解した上で、Macのその魅力が際立つように進化させてきた。

 メディアでは、いずれはどちらかがなくなるのではないかという文脈で「iPad vs. Mac」といった対決構図を描くが、実は2010年の最初のiPad登場以来、Appleは両製品を健全な形で社内競合させながら、双方がより魅力的になるように進化させている。

 4つ目は、Macで製作する新しいコンテンツ領域、そしてiOSで楽しむ新しいコンテンツ領域としてのARとVRだ。今回、Mac用にはMetal for VRを提供し、一方、iOS用にはARKitを用意。このARKitも他のAR系エンジンと比べると標準で用意している機能は少なめだが、その分、提供している機能に関してはかなり精度が高く、安定しているようで、既に多くの開発者がインスピレーションを受け、試作したアプリの動画をYouTubeにアップしている。

 iPhoneの登場から10年目を迎え、Appleの4つのプラットフォームはそれぞれが次のステージに向け着実な一歩を踏み出したようだ。

(取材協力:Apple Japan)

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