ちなみに、人々が日々の暮らしの中で安心してデジタル機器を使えるように、悪行を続けるIT企業とプライバシー保護の戦いをしているのは、今ではAppleだけではない。
2018年はEU(欧州連合)が、この姿勢を打ち出しGDPR(EU一般データ保護規則)を打ち出したし、最近、デジタル系ベンチャー企業の勢いが凄まじいフランスのITベンチャー企業にも、プライバシー保護を旗印にした企業が多い。またシリコンバレーと同じ米国でも最近、西海岸とは違う経路のテクノロジーベンチャー企業が増えているニューヨークのベンチャー企業も同様だ。
今、プライバシー情報をのぞき見して未来の資産となるAIを構築し、広告ビジネスなどを通して監禁していた旧来型のIT企業と、新興のIT企業との間で大きな抗争が始まっている。ちなみに、これは単にIT業界だけの話題ではなく、これからを生きる人類全体の課題だ。
今やデジタルテクノロジーは日々の暮らしや仕事で当たり前に使われ、世界数十億人に影響を与える重要な基盤だ。しかし、それがこれまで一部のテクノロジー企業の利益だけを拡大するためであったり、テロや選挙といった内政に干渉したりする手段などに悪用され、半ばデジタル無法地帯を広げている側面があった。
これまでは「そうはいっても、デジタルテクノロジーとはそういうものだから仕方がない」というあきらめの声が聞こえることが多かったが、最近ではこれから先のデジタル社会を安心・安全なものとするために、徹底抗戦の姿勢を見せる人々が増えている。
特にヨーロッパでは勢いがある。ポール・ミラー(Paul Miller)というイギリス人が広めた「Tech for Good(Tech4Good)」というキーワードを掲げて、デジタルテクノロジーの活用を、もう1度、その姿勢から見直そうという流れが起き始めているのだ。
5月にパリで開催された「Viva Technology 2019」というイベントでも、エマニュエル・マクロン仏大統領やカナダのジャスティン・トルドー首相らが「Tech4Good」を声高にうたい、政府としてもデジタルテクノロジーの姿勢を見直していく姿勢を強く打ち出した(日本政府からもそうしたビジョンであったり、姿勢だったりを期待したいところだが……)。
こうした世界的な新潮流が生まれる中、それを一番、真剣に実践しているのが、シリコンバレーの中心、クパチーノを本拠地として、PC市場やスマートフォン市場を誕生させ、デジタル時代を切り開いてきた最も老舗のテクノロジー企業、Appleというのは実に面白い構図だが、やはり、老舗には老舗としての責任感や気概があるのだろう、と感じたのが2019年のWWDCだった。
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