「iOS 13」でプライバシー保護を強化するApple 個人データからFacebookとGoogleを遠ざける新機能もITはみ出しコラム

» 2019年06月09日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米Appleが6月3日(現地時間)に開催した開発者会議「WWDC 2019」の基調講演はご覧になりましたか? 米Googleの開発者会議「Google I/O 2019」より30分も長かったのですが、長さを感じさせない盛りだくさんな内容でした。

 Google I/Oではかなり「プライバシー」を前面に打ち出していましたが、WWDCではプライバシーは通奏低音のように流れていました。

 Googleのスンダー・ピチャイCEOがI/Oで「プライバシーはぜいたく品じゃない」とAppleに当てこすったことについて、ティム・クックCEOが応酬するかなと思ったら、素通りでした。

 ただし、新機能の紹介の度に、「当然だけど、データは集めませんから」と一言入りました。The Independentのインタビューで「ピチャイさんのあの当てこすりには驚きましたよ」と語ったソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギさんは、今秋リリース予定の「iOS 13」を紹介する際、「プライバシーは基本的人権だから」と言いました。

Craig Federighi 米Appleソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長のクレイグ・フェデリギさんは、WWDC 2019の基調講演で「iOS 13」のプライバシー関連機能を紹介

 これは、iOS 13の以下の3つのプライバシー関連機能を紹介したときの言葉です。

  1. サードパーティーアプリによる位置情報収集の規制
  2. GoogleやFacebookのアカウントでのログインに代わる「Sign in with Apple」
  3. ホームカメラの録画をメーカーのクラウドに保存しない「HomeKit Security Video」

 全部、サードパーティー、特にFacebookとGoogleをユーザーデータから遠ざけるものです。

 1は、サードパーティーはユーザーの位置情報にアクセスする必要がある度に許可を求めるというもの。これはめんどくさいなと思ったらユーザー側で許可もできるけれど、そうするとバックグラウンドトラッキングについてのレポートが届く。こうした規制をくぐりぬけて端末の近くのWi-FiスポットやBluetoothから位置情報を割り出そうとすることも(方法は説明しなかったけど)ブロックします。

ios 13 privacy サードパーティーアプリによる位置情報収集を規制

 2のSign in with Appleは、GoogleやFacebookが2007年くらいから提供している「OAuth」採用のログインサービスのように、初めて使うサービスへのログインで新たにユーザー名やパスワードを作らずに、手持ちのアカウントを使う機能です。OAuthによるログインは手間が省けて便利ですが、アカウントの元締めであるGoogleやFacebookに個人データをもっていかれるからプライバシー的によろしくない、ということです。

ios 13 privacy 「OAuth」によるログインは手間が省けて便利ですが、アカウントの元締めであるGoogleやFacebookに個人データをもっていかれることに……

 Sign in with Appleは、対応するサービスに「Face ID」を使って名前だけでログインする機能。メールアドレスを求めるサービスに対しては、その度に生成する新しいメールアドレスが提示され、それを選ぶとサービスからのお勧め情報などはそのアドレス経由で自分のメールアドレスに転送されます。サービスごとに違うアドレスだから、お知らせの拒否も簡単です。

 3のHomeKit Security Videoは、ホームカメラで録画したビデオを暗号化してユーザーの「iCloud」に保存するというもの。ビデオの解析はクラウド上ではなく、カメラとつながっている「iPad」か「Home Pod」か「Apple TV」で行います。つまり、録画はAppleも、カメラメーカーも見られません。暗号化された録画の保存分はiCloudの容量とは別にカウントしますが、iCloudの有料プランが必要。まずはNetatmo、Logitech、Eufyから対応するカメラが発売される予定です。

ios 13 privacy ホームカメラで録画したビデオを暗号化してユーザーの「iCloud」に保存する「HomeKit Security Video」

 この他、「watchOS 6」のヘルスケア関連アプリのデータは全て「Apple Watch」側で暗号化されるし、iCloudにバックアップするときも暗号化されるから、安全だという話や、騒音レベルがこの90dB(このレベルの騒音を週に4時間聞くと耳に悪い)を超えると警告するアプリ「Noise」も、周囲の音を集めてるわけじゃないからね、と一言。

noise Appleは「周囲の音を集めてるわけじゃないからね」

 アクセシビリティ機能として紹介した、音声でmacOSとiOSデバイスを操作する機能の紹介でも、プロセスは全てデバイス側で完結し、クラウドにデータが保存されることはないと付け加えました。

accessibility アクセシビリティ機能もプライバシーを確保

 Googleも「オンデバイスAI」や「フェデレーションラーニング」などの技術で、データを集めずに便利にする方法も開発していますが、Appleと違って主な収入源は広告なので、ユーザーデータを全く集めないというわけにはいきません。

 この基調講演だけで、何だかAppleにまかせておけばプライバシーは安心な気がしてきました。でも広告で成り立つ無料アプリの開発者たちは、ターゲティングが難しくなるので大変そうです。Androidアプリは無料でもiOSアプリは有料にするとか、いっそiOSアプリはやめようか、となったりしないといいのですが。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年04月25日 更新
  1. ワコムが有機ELペンタブレットをついに投入! 「Wacom Movink 13」は約420gの軽量モデルだ (2024年04月24日)
  2. 16.3型の折りたたみノートPC「Thinkpad X1 Fold」は“大画面タブレット”として大きな価値あり (2024年04月24日)
  3. 「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ (2024年04月23日)
  4. Googleが「Google for Education GIGA スクールパッケージ」を発表 GIGAスクール用Chromebookの「新規採用」と「継続」を両にらみ (2024年04月23日)
  5. 「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり (2024年04月24日)
  6. バッファロー開発陣に聞く「Wi-Fi 7」にいち早く対応したメリット 決め手は異なる周波数を束ねる「MLO」【前編】 (2024年04月22日)
  7. ロジクール、“プロ仕様”をうたった60%レイアウト採用ワイヤレスゲーミングキーボード (2024年04月24日)
  8. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  9. ゼロからの画像生成も可能に――アドビが生成AI機能を強化した「Photoshop」のβ版を公開 (2024年04月23日)
  10. MetaがMR/VRヘッドセット界の“Android”を目指す 「Quest」シリーズのOSを他社に開放、ASUSやLenovoが独自の新ハードを開発中 (2024年04月23日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー