15インチモデルを大幅にアップデートした「16インチMacBook Pro」の登場は、2019年11月のことだった。
拡大したRetinaディスプレイ、低音までしっかり再生できる高音質な内蔵スピーカー、米連邦航空局が航空機への持ち込みを認める最大容量100Whギリギリ(99.8Wh)の搭載バッテリー、それにモバイル機向けで初の「Magic Keyboard」を投入。搭載するプロセッサこそIntelの第9世代Coreを前モデルから引き継いでいたが、製品の体験レベルは大きく進歩していた。
「将来に向けて、より大きな消費電力のプロセッサを搭載する余力」を持たせるため、熱設計をやり直したことも大きなポイントだ。マルチコア化が進むCPUの発熱に対応し、フルスピードで動作できる範囲を広げ、さらには50W TGPのGPUを搭載可能にすることで、薄く可搬性が高い上、大容量のバッテリーも内蔵するモバイル志向のクリエイター向けモバイルコンピュータに再構築された。
そして2020年6月15日、その新しい筐体にAMDが新開発したより高性能なGPUが搭載可能となった。
新たに用意されたGPUのオプションは、AMDの「Radeon Pro 5600M(8GB HBM2メモリ)」だ。Appleによれば、CPUが8コアのモデルに標準で採用している「Radeon Pro 5500M(4GB GDDR6メモリ)」に比べ、GPU処理能力が最大75%向上しているという。
Radeon Pro 5500Mと名称は似ているが、同じ50W TGP枠でも仕様は大きく異なる。演算ユニットは5500Mの24に対して5600Mでは40、これに伴いストリームプロセッサは1536から2560に増えている。メモリ帯域も394GB/秒と2倍以上だ。一方で最大クロック周波数は5500Mの1300MHzに対して5600Mでは1035MHzに抑えられている。
最大クロック周波数は抑えられているものの、処理内容次第では演算器の数が大きくパフォーマンスの向上に寄与するに違いない。また同じTGP枠とはいえ、「薄型の16インチMacBook Proに搭載された状態で、どこまで能力を発揮できるのか?」という視点もある。
Appleの主張通りにパフォーマンスが向上するのであれば、GPUを多用するアプリを使うユーザーにとって魅力的なオプションといえるが、問題なのはそのための追加コストだ。
ローエンドモデルに採用されている「Radeon Pro 5300M(4GB GDDR6メモリ)」を5500M(4GB GDDR6メモリ)に変更するとプラス1万円、さらに5500MのGDDR6メモリを8GBに増やすと価格はプラス1万円になり、そこから5600M(8GB HBM2メモリ)へと増強する価格はプラス6万円が必要だ。
Radeon Pro 5600Mよりも高性能なミドルクラスのデスクトップゲーミングPC向けグラフィックスカードを購入しても、お釣りが1万円以上戻ってくるだけの予算が必要になる。
それならば、MacBook Proの内蔵GPUは5500Mを選んでおき、eGPUのベアボーンキット(Thunderbolt 3接続の外付けGPUボックス)を接続することでGPU能力を強化した方が、費用対効果が高いという見方もできる。トータル8万円ほどを支出すれば、高性能なデスクトップ向けGPU「Radeon RX 5700 XT」を搭載するeGPUを組み立てることが可能だからだ。
今回はeGPUとの組み合わせまでの評価は行えていないが、Radeon Pro 5600M(8GB HBM2メモリ)と5500M(4GB GDDR6メモリ)を搭載した2台の16インチMacBook Pro(差額は7万円)が用意できたので、実アプリケーションのパフォーマンスを中心に、新オプションの効果について検証してみた。
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