米国外に目を向けると、Appleはスカンジナビア半島に、同社としては最大の太陽光発電施設を建造中で、フィリピンやタイの貧しいコミュニティーに電力を供給する発電所も建造中だという。
4の「製造プロセスやマテリアルでのイノベーション」では、Appleの新製品情報に詳しい人なら最近のMacBook ProなどのApple製品が100%再生アルミを使用していることを知っているかもしれないが、今回、これが2社のアルミサプライヤーへの投資と協業で、二酸化炭素を排出しない新しいアルミニウム製錬技術を開発できたからであることが明らかになった。
人類とアルミとの付き合いは130年にもおよぶが、その歴史は常に大量の二酸化炭素排出を招くものだった。しかし、2018年5月、AlcoaとRio Tinto Aluminumから多くの特許を含むElysisという製錬技術が誕生し、これがまずは再生アルミでも話題になった16インチのMacBook Proという形で結実したのだ。
Appleは同様の製造プロセスのイノベーションで、温暖化に影響すると言われているフッ素ガスの排出も抑えた。2019年には24.2万メトリックトンのフッ素ガスを削減した。
5の「二酸化炭素削減」では、Appleは森林や湿地、草原の回復など、自然の生態系をグローバルレベルで回復するための同社としても初めての取り組みを始める。
1つは非営利団体のコンサベーション・インターナショナルとのパートナーシップにより、コロンビアでの重要なマングローブの生態系復元やケニアの劣化したサバンナ復元など、既存の活動から得た教訓をもとに、新たなプロジェクトに投資する。マングローブは海岸を保護し、生育する地域社会の生活を支えるだけでなく、陸上の森林の10倍もの炭素を蓄えることができる。
同じく非営利団体のThe Conservation Fundや世界自然保護基金(the World Wildlife Fund)そしてコンサベーション・インターナショナルといった団体とのパートナーシップを通して、Appleは中国、米国、コロンビア、ケニアで合計100万エーカー以上の森林などの自然を保全したり状態改善をしたりしたという。
Appleの環境・政策・社会イニシアティブ担当副社長のリサ・ジャクソン氏は、2030年までにカーボンニュートラル、つまりAppleが作り出した二酸化炭素の量と、減らした二酸化炭素の量を合算でゼロにするという目標のうち、75%までは1〜4の排出削減策でまかなっていくが、残り25%分は既に出ている二酸化炭素を減らす5の「二酸化炭素削減」策で賄っていく考えだという。
今回、Appleは「2020年度進捗報告書」というタイトルで同社のここまでの環境への取り組みを記した100ページに及ぶ資料を公開した。
冒頭を飾るのは、リサ・ジャクソン氏のこんな言葉だ。
「私たちが共有している地球を守る責任は、私たちの生活のあらゆる面に関わっています。今年は、自然が私たちの誰よりも大きく、より強力であることを、謙虚に思い出させてくれました。世界的な課題を解決できるかどうかは、歴史的なイノベーションとコラボレーションにかかっています」
よく企業の環境問題というと、再生エネルギーの活用やプラスチック利用の廃止といった、極めて具体的な方策を通して語られることが多い。Appleのこの資料を読むと、そうしたことは「枝葉末節」、つまり、取るに足りない部分であって、本質はもっと奥深いところにあると再認識させられる。
報告書では、例えばつい最近話題になった人種的マイノリティーに関する取り組みにも触れられている。Appleが社会変革を促進するためのインパクト・アクセラレータを立ち上げたという話だ。気候変動や環境問題への取り組みにおいても、今はまだ人種による不均衡が生じているが、それを是正すべくマイノリティーが所有するビジネスやイノベーションに投資するためのものだという。
“大人の企業”として、これだけ多面的な取り組みができているのは、企業としての視線が枝葉末節の側ではなく、「次の世代」や「地球を守る責任」という本質について真剣に向き合い、膨大な議論を重ねている何よりの証拠だろう。
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