AIを活用した学習支援という観点では、NECが開発した「協働学習支援サービス」にも注目したい。
新しい学習指導要領は、児童や生徒が主体的に学習を進める「アクティブラーニング」や、他者と一緒に学習を進める「グループ学習」を推進する方向性を盛り込んでいる。しかし、児童や生徒を評価する立場にある教員にとって、アクティブラーニングやグループ学習は“評価”することが難しい。児童や生徒の行動や発言を逐次確認することが難しいからだ。
そこで、登場するのが協働学習支援サービスである。このサービスは、児童や生徒の発言を“可視化”するためのソリューションだ。具体的には、グループ(協働)学習中の発話をマイクデバイスで収集し、その音声をAI(人工知能)で解析して教員にフィードバックする仕組みとなっている。
生徒や児童の発話はグループごとにタイムラインで可視化される。発話者(児童や生徒)の感情変化は色で示され、全発言に占めるシェア(割合)も表示できる。授業後には、児童や生徒の発話回数、あらかじめ設定しておいた「学習キーワード」の出現回数、発言への割り込み回数なども確認できる。
グループ学習をより効果的に進めつつ、1人1人の児童や生徒の能力と特性を確認し、より良いグループ学習(アクティブラーニング)につなげられるソリューションといえる。
協働学習サービスを発展させるべく、NECは京都市教育委員会や京都大学と共同で「未来型教育 京都モデル実証事業」を実施している。この事業は2019年1月から本格的にスタートし、同年8月には文部科学省から「新時代の学びにおける先端技術導入実証研究事業」にも採択され、2022年3月まで継続される予定となっている。
この事業では、NECの協働学習支援サービスを活用しつつ、グループ学習で得られたデータはもちろん、学習用タブレットを通して得られる学習ログ(デジタル教科書の閲覧ログ、ドリルの閲覧/解答ログ)、学力テストの結果、児童や生徒から取ったアンケート結果などを統合的に分析することで、児童や生徒に個別最適化された指導方法の策定や、教師、児童や生徒、保護者に対する適切なタイミングでフィードバックすることを目指している。
こうした学習データの分析は「ラーニングアナリティクス」とも呼ばれる。1人1人の子どもについて、「やる気」や「能力」を伸ばすために行ったことを実証・分析していくことで「エビデンス(証拠)」が蓄積されていく。そのエビデンスを学校間で共有すると、より効率的な学びにつながっていく。
簡単にいえば、この事業の究極的な目標は「エビデンスに基づく教育」を実現することにある。この方向性は、日本政府が掲げる「EBPM(エビデンスに基づく政策決定)」ともリンクする(参考記事)。
この事業には、ラーニングアナリティクスの第一人者である京都大学の緒方広明教授( 学術情報メディアセンター)が協力している。2019年12月から2020年3月の期間は七条第三小学校と加茂川中学校で実証が行われ、2020年2月17日にその結果を披露する公開授業も実施された。
NECによると、この実証を通してエビデンスに基づく教育を実現するための知見が多く得られたという。
新型コロナウイルスによる臨時休校といった“予想外”の事態に対応すべく、国、教科書の出版社、端末メーカーやソフトウェアベンダーなどが総力を挙げて小中学校へのICT導入を急いでいる。まさに「日進月歩」という状態で、状況も目まぐるしい。
子どもたちの学ぶ権利を守るためにも、教育分野におけるICT利活用の進歩に期待したい。
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