ベンチマークは「リアルな使い方」で取るべき Intelが主張(3/4 ページ)

» 2020年08月20日 15時30分 公開
[井上翔ITmedia]

Uプロセッサ:バッテリー駆動では本領を発揮できないRyzen?

 Uプロセッサの比較では、HPの2in1ノートPC「Envy x360 15t」のCore i7-1065G7(1.3G〜3.9GHz、4コア8スレッド)モデル、Core i5-1035G1(1G〜3.6GHz、4コア8スレッド)モデルと、「Envy x360 15z」のRyzen 7 4700U(2G〜4.1GHz)モデルの計3台を用意して比較が行われた。

 Hプロセッサのベンチマークと同様に、CPU以外の構成は極力そろえられている。

Uプロセッサ Uプロセッサの比較を行った環境。やはりCPU以外は同一メーカー、同一構成にそろえられている

 最初にジワラ氏が示したのは、AC(外部電源)駆動時とバッテリー駆動時のベンチマークスコアの差分だった。

 その“あんばい”はメーカーによってさまざまだが、バッテリー駆動時にはCPUのパフォーマンスが制限されることが多い。バッテリー持ちをよくするためだ。いわゆる「ハイパフォーマンス」にしても、AC駆動時よりも最大クロックは抑制される傾向にある。

 今回のテスト環境でベンチマークテストを実行した場合、バッテリー駆動に切り替えるとCoreプロセッサはスコアがおおむね10〜20%落ち込んだのに対し、Ryzen 7 4700Uはおおむね30〜50%と大きな落ち込みとなったという。Ryzen 7 4700Uのスコアを「1(標準)」として比較すると、AC駆動時はCore i7-1065G7とほぼ同等かほんのわずかに劣る程度だったのに対し、バッテリー駆動時はCore i5-1035G1にも引き離される状況だったと主張する。

各種ベンチマーク 各種ベンチマークテストをバッテリー駆動時に実施すると、Ryzen 7 4700Uの落ち込みは大きくなっている
ACとDC AC駆動時はCPU間のスコア差は少ないが、バッテリー駆動になるとRyzen 7 4700UがCoreプロセッサ2製品に引き離されていることが分かる

 ただ、あくまでベンチマークの結果であって、Intelが主張する「実使用環境」に視点を移すとどうなるか。同社が実施したテスト結果を見る限りは、ベンチマークテストと同様にRyzen 7 4700Uはバッテリー駆動になるとパフォーマンスが大きく落ち込んだという。

 Ryzen 7 4700Uは、バッテリー持ちを良くするためにパフォーマンスを犠牲にしているようだ、とジワラ氏は説明する。

 バッテリー持ちをよくするためにパフォーマンスを犠牲にする――そうなると、実際のバッテリー駆動時間が気になる所だろう。IntelがMobileMark 2018で計測した結果を見ると、確かにRyzen 7 4700Uが一番“長持ち”となった。しかし、パフォーマンスチェックでは最下位にとどまっている。

 他のベンチマークアプリを使ってテスト中のコアのクロックを見てみると、バッテリー駆動時のクロックを抑制している傾向が顕著だったようだ。

実使用でも落ち込み 「メールの統合」「PowerPointシートからPDFへの変換」「ExcelのチャートをWordに貼り付け」といった実使用を想定したテストでも、バッテリー駆動時におけるRyzen 7 4700Uがパフォーマンスにおいて落ち込んでいることが分かる
バッテリー持ちで犠牲? Ryzen 7 4700Uはバッテリー持ちが良いが、その分バッテリー駆動時のパフォーマンスでCoreプロセッサとの差が生じている
比較 PCMark 10でテスト中のコアへの供給電力の推移をチェックすると、Core i7-1065G7と比べてバッテリー駆動時の“抑制”が大きいことが分かる
比較 この傾向は稼働クロックにも反映される

 これらの傾向はHプロセッサでも同様で、Ryzen 7 4800Hはバッテリー駆動時間こそ一番長いが、Coreプロセッサと比べるとAC駆動時とのパフォーマンス差が大きかったという。

Hプロセッサのバッテリー駆動時のパフォーマンス Ryzenプロセッサがバッテリー駆動時にパフォーマンスが落ち込む傾向は、UプロセッサだけではなくHプロセッサでも同様だった
Hプロセッサのバッテリー持ち バッテリー持ちとパフォーマンスの相関についても同様の傾向にある

 ただ、「AC駆動時のRyzenプロセッサのパフォーマンスは良好」ということは、客観的に見ても事実ではある。そこでジワラ氏が言及したのが「エコシステム」だ。

 最新の第10世代Coreプロセッサのうち、「Ice Lake」という開発コード名を持つものは、機械学習に最適化された命令セットに対応している。これを機械学習ベースのAI(人工知能)を活用できるアプリで用いれば、より高いパフォーマンスを発揮できるという。

OpenVINOなど Intelが提供するツールキットを活用してアプリを作成すれば、Ice Lakeプロセッサ(やそれ以降のプロセッサ)の機械学習向け命令セットを使ってパフォーマンスを上げられる
機械学習実例 実際にIce Lakeプロセッサの命令セットを使っている「Nero」「PowerDirector」において、命令セットを適用できる処理のパフォーマンスを比較。特にPowerDirectorの「AI Style Transfer」では、処理速度面でIce LakeプロセッサがRyzenプロセッサを大きく引き離している

 ただ、8月時点で市場に出回っている第10世代Coreプロセッサの多くは、機械学習向け命令セットを備えない「Comet Lake」という開発コード名を持つものだ。

 Ice Lakeプロセッサにゲーミング向け製品がないという事情はあるにせよ、Uプロセッサの比較とHプロセッサの比較で異なるアーキテクチャの製品を“ぶつける”ことには若干の違和感を覚えた。

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