Intelが9月2日(米国太平洋夏時間)に発表した、モバイル向け新型CPU「第11世代Coreプロセッサ」(開発コード名:Tiger Lake)。2020年秋から、PCメーカーを通して搭載製品が登場する見通しだ。
このTiger Lakeなのだが、PCメーカーの設計次第で性能が大きく変わる可能性がある。一体どういうことなのだろうか。
PC用のCPUには、排熱設計の目安となる「TDP(熱設計電力)」が定められている。例えば、TDPが「45W」であるCPUは、「45Wの熱源(=CPU)を規定の稼働温度(※)に冷却できる排熱機構」が必要となる。最近は定格よりも高いクロック(周波数)で稼働する機能を備えるCPUが一般的であるため、実際にはCPUが定めるTDPよりも“余裕”のある排熱機構が欠かせない。
(※)Intel製CPUの場合は「Tジャンクション」(CPUダイが許容できる最大温度)が基準となる
単純に考えると、同じアーキテクチャ(設計)のCPUなら、TDPが高い製品ほど処理パフォーマンスも高い。しかし、十分に排熱をするためにファンやヒートシンクはどうしても大きくなる。
そのため、省電力性やボディーの薄さや軽さを重視するノートPCでは、TDPの低いCPUが採用される傾向にある。逆に、処理パフォーマンスを重視するノートPCでは、重さや厚さに目をつむってTDPの高いCPUを採用するケースもある。
Intelの一部CPUには「コンフィグラブルTDP(cTDP)」が設定されている。Intelが満たす要件を満たすことでPCメーカーがTDPを調整できるという仕組みだ。
TDPを定格よりも低く設定すれば、パフォーマンスは下がるが消費電力を抑制できる。逆にTDPを定格よりも高く設定すれば、消費電力が増える代わりにパフォーマンスを引き上げられる。
Tiger Lakeでは、cTDPが「オペレーティングレンジ(Operating Range:動作範囲)」という表記に改められた。想定消費電力(TDP)の定格値がなくなり、一定の範囲内でメーカーが自由に設定できるようになったのだ。
その設定範囲は、従来のU(低電力)プロセッサに相当する「UP3プロセッサ」では12〜28W、Y(超低電力)プロセッサに相当する「UP4プロセッサ」では7〜15Wとなる。
【画像差し替え:9月18日18時35分】オペレーティングレンジの説明画像について、インテルが提供するスライドに差し替えました
オペレーティングレンジの設定がメーカーに委ねられるということは、同じCPUを使っていても、メーカーや機種によっては少なくない性能差が生じる可能性があるということだ。「同じCPUなら、だいたい同じパフォーマンスだろう」という前提に立った機種選びが困難になるということでもある。
この点について、Intelはどう考えているのだろうか。9月17日にインテル(日本法人)が実施した説明会での質疑応答の一部を見てみよう。
―― Tiger Lakeにおいて、cTDPはオペレーティングレンジに改められました。そうすると、(同じCPUを使っていても)製品のデザイン次第で性能が変わってしまうことになります。この点について、ユーザーにどう説明すればいいと思いますか。
安生健一朗氏(インテル 技術本部長) その点について、私たちは少し違う角度から見ています。(性能に差が出るというよりも)むしろPCメーカーの“色”が出しやすくなると考えているのです。
例えば「極限まで薄くすることを重視する」とか「(多少厚みが増しても)放熱機構を充実させてパフォーマンスを出す」といったように、同じ世代、同じCPUでも多様なノートPCが世に出ることによって、いろんな軸の選択肢が生まれます。
メーカーにとっても、ある意味の競争となりますし、差別化も図りやすくなると思います。
CPUの電力チューニングをメーカーに任せることで、ノートPCのバリエーションが増え、よりユーザーに合うものが選びやすくなるという立場のようだ。
同じCPUでも機種によって性能が変わる――そんな時代が本格的に訪れようとしているのかもしれない。
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