HHKBシリーズの最大の特徴は、キー数の少ない省スペースキーボードであることだろう。現行モデルでは英語配列で60キー、日本語配列でも69キーしかない。そのため、機能キーの多くはFnキーとの同時押しで入力することになる。
同様のキー数を減らしたキーボードは小型ノートPCでも見られる。本体のフットプリント以上のキーボードが搭載できない小型ガジェット(ThinkPad 701Cやポメラ、ポータブックといった例外はあるが)では、キーピッチを確保するためにキー数を減らす必要がある。
だが、HHKBは外付けキーボードであり、そこまで厳しい制限があるわけではない。それなのにどうしてキー数を減らしているのかというと、これはHHKBの設計思想によるところが大きい。
HHKBは、WIDEプロジェクト会員である和田英一東京大学名誉教授と、PFU研究所の共同研究によって生まれた。1995年度のWIDE報告書の「個人用小型キーボード」の章では、UNIXユーザーに不要なキーがどんどん増えてキーボードが大きく、邪魔になっている、これらの問題に対応するためには必要最小限のキーをもったマイキーボードを作るしかないと、HHKBのキーレイアウト案が掲載されている。
キー配列は英語、Aの外側にControlキー、スペースバーの両端にMetaキー、Altキー、Fnキーを右Shiftキーの外側に配置している一方で、CapsLockは排除されている。
筆者自身、仕事で英語配列キーボードのSPARC StationやX端末を使い、自宅で日本語配列キーボードのPCを使っていた時期があるので、UNIXと日本語配列の相性の悪さは理解できる。特にプログラマーだと括弧のキーの位置、中括弧が隣同士でない、シングルクォートとダブルクォート/コロンとセミコロンがそれぞれ別のキーに割り当てられている、スペースバーが小さい、などがストレスになることもよく分かる。
そのため、初代の無印HHKBは英語配列で設計されている。日本語配列が登場したのは2001年4月の「HHKB Lite2」からだ。その際、英語配列/日本語配列ともに小さなカーソルキーが右下に配置されている。いかにも後から無理矢理付けました、という感じが否めない特殊サイズのキーだったが、必要とするユーザーにとってはありがたい追加だった。
その後のモデルチェンジでは英語配列と日本語配列の間に大きな方針の違いが見られた。カーソルキーを廃して原点回帰した英語配列に対し、日本語配列はカーソルキーを通常のキーサイズへと大型化するという真逆の方向に向かった。
5列レイアウトに収まるよう、カーソルキーのうち上キーは小型化した右Shiftキーの内隣に配置されている。その他、HHキーが左に移動、さらにMetaキーが追加された。その結果、HHKB Lite2の68キーに対し、1キー増の69キーとなって現在に至る。なお、和田氏のWIDEプロジェクトのWIDE用語集では以下のような項目がある。
こわれた・きーぼーど【壊れたキーボード】
現在の日本語配列HHKBは、1と2、4に該当するが、和田氏の理想を具現化したキーボードは英語配列のHHKBで、日本語配列は市場のニーズに応えた製品ということかもしれない。どちらの配列も高い支持を受けているということは、「あるべき姿」は1つではないということでもあるのだろう。
一方、REALFORCE R3は全モデルが日本語配列だ。レイアウトを切り詰めているところもなく、ファンクションキー列含めて6列112キー(フルキーボード)/91キー(テンキーレス)という構成だ。英語配列を求めるユーザーは必然的にHHKBということになるが、それだけで選んでは痛い目に遭う。HHKBは自身をアップデートすることで手になじむキーボードであり、初めてHHKBを触るのであれば、そのクセの強さゆえにキー操作の習得にある程度のコスト(時間や情熱)が必要となる。
クセが強いからこそ、クセになる――それがHHKBだ。
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