最近よく聞く「レイトレーシング」 一体ナニモノ?レイトレーシングが変えるゲームグラフィックス(第1回)(1/3 ページ)

» 2022年02月12日 11時00分 公開
[西川善司ITmedia]
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 2018年、NVIDIAがリアルタイムレイトレーシング(RT)に対応するGPU「GeForce RTX 20シリーズ」を発表した。このことは、2000年に誕生した「プログラマブルシェーダー」以来となるグラフィックスパイプラインにおける大きな“変革”をもたらした。

 そして2020年、ついに家庭用ゲーム機にもRT機能が搭載された。そう、「PlayStation 5(PS5)」と「Xbox Series X」「Xbox Series S」のことである。これらのゲーム機にAPU(GPU統合型CPU)を提供しているAMDも同年、RTに対応するGPU「Radeon RX 6000シリーズ」を投入した。NVIDIAから約2年遅れとはなったが、PC用GPUの二大巨頭がRTに対応したことは意義深い。

 そして2022年の今年、NVIDIAは「GeForce RTX 3050」、AMDは「Radeon RX 6500 XT」とエントリークラスのRT対応GPUをリリースした。「レイトレの大衆化」がついに本格化したという印象だ。

 さて、そもそも「レイトレーシング」とはどのような技術なのだろうか。そして、ゲームグラフィックスにどんな変化や進化をもたらすものなのだろうか。このあたりを、数回に分けて解説してみることにしたい。

RTX 世界で初めてRTに対応したGPU「GeForce RTX 20シリーズ」(写真はGeForce RTX 2080 Founders Edition)
RX AMDも「Radeon RX 6000シリーズ」でRTに対応を果たした

従来の3Dレンダリング手法は「ラスタライズ法」

 まず、3Dグラフィックスのレンダリング(生成)方法について簡単に解説する。

 現在のPC、携帯電話やゲーム機などに搭載されている全てのGPUは、基本的に「ラスタライズ法(Rasterize)」という手法で3Dグラフィックスをレンダリングしている。この名前は、ポリゴン(三角形)を使って構築した3Dシーンをポリゴン単位で描画していくに当たって、ポリゴンを画面上のピクセルに分解(ラスタライズ)することに由来する。

 ポリゴンから分解されたピクセル群には、ライティング(光源)演算やテクスチャを絡めて「ピクセルシェーダー」においてシェーディング(陰影)処理が施される。これにより色が確定され、画面に出力される。

 この処理系において、画面の外にある3Dオブジェクトたちは処理対象外となるため“存在しないもの”として扱われる。このことはラスタライズ法の最大の利点であり、同時に弱点にもなっている

 例を出して説明してみよう。今、画面内に正面を向いている戦士がいるとする。

戦士がいる図 画面内に(カメラに向かって)正面を向いている戦士がいるシーンを想像してほしい(図版はインプレスから発売されている拙著「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」から引用、以下同)

 ラスタライズ法では、その戦士の正面は視点(カメラ)からの視界範囲内にあるので、ちゃんと描画される。一方で、その背中は視界に入っていないため、“ないもの”として描画対象から外れる。もっといえば、この戦士の背後に重なっている魔道師の身体の一部も“ないもの”として処理されてしまう(これを「早期カリング(Early Culling)」という)。

 また、ラスタライズ法には「間接光」という概念がないため、直接光からのライティングしか行えない。その直接光の当たり加減としての「陰影」は自動で出せるのだが、第三者に遮蔽(しゃへい)されてできる「影」は出すことができない。

 基本的に、ラスタライズ法は「第三者からの関与」を処理する仕組みを完全に排除した描画手法である。よって、戦士のよろいに直接光としての照り返しのハイライトは表現できても、よろいに木々が映り込んでいるような「鏡像」表現は行えないのだ。

割り切り ラスタライズ法は、大胆な“割り切り”をすることでリアルタイム性を担保している

 ここで「あれ?」と思った人もいることだろう。最近のゲームグラフィックスには影もあるし、間接光表現も見られるし、鏡像だってあるじゃないかと。

 実は、現在のゲームグラフィックスで見るこれらの要素は、その都度GPUを使ってラスタライズ法で“別途”描画しているのだ。

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