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何があっても“学び”を止めない――茨城県守谷市が全小中学校のオンライン授業をいち早く実現できた理由(前編)(3/3 ページ)

» 2022年03月18日 12時00分 公開
[石井英男ITmedia]
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iPadの貸し出しを希望した児童/生徒は約3割

―― 先見の明というか、前もって準備されていたことが生きているようですね。私にも、8月18日付でアンケートメールが届きました。その中に、iPadやWi-Fi(無線LAN)ルーターの貸し出し希望を募る項目もあって手際が良いなと思いました。iPadやWi-Fiルーターの貸し出しを希望した児童/生徒の人数はどのくらいだったのでしょうか。(編集注:守谷市が配備したiPadはWi-Fiモデル)

奈幡氏 iPadの貸し出しは小学校で3割ほど、中学校で約24%でした。Wi-Fiルーターの貸し出し希望は小中学校を通してわずか150件でした。率でいうと約2.4%ですね。守谷市のご家庭は、思った以上に端末や通信環境に恵まれているという印象を受けました。

―― 小学生への貸し出しは「4年生以上の3割」という意味でしょうか。

奈幡氏 その通りです。児童/生徒に学習用端末を貸し出す自治体もありますが、守谷市の場合は自宅ではご家庭にあるPCやタブレットを使っていただくことを原則としています。

 オンライン授業用にiPadを借りて使う場合、接続時にリスクがあることと、保護者の監督のもとで使うことをお伝えした上で貸し出すようにしたのですが、その結果が先ほどの比率ということになります。

大きな役割を果たす「学校別ポータルサイト」

―― 守谷市は教育熱心というか、学びに関して積極的に関わっている保護者が多いように思います。

奈幡氏 先ほど石井さんがお話しいただいたアンケートですが、「学校別ポータルサイト」で回答いただいたと思います。このサイトは全ての守谷市立小中学校が個別のものを用意しています。

―― 学校別ポータルサイトは、いつ運用を開始したのですか。

奈幡氏 本格的に運用を開始したのは2021年6月頃からなので、比較的最近です。2020年度の反省もあり、教育委員会としてはオンライン上で学校と家庭がスマートかつ円滑につながる仕組みは必要だと考えていました。学校単位の閉じられた仮想空間上に、もう1つの「学校」「学級」を用意すべきだと。

 学校別ポータルサイトを用意したことは、今回のオンライン授業をスムーズに始められた理由の1つといえると思います。

ポータルサイト 守谷市では、全ての市立小中学校にWebサイトがある。それに加えて、2021年6月からは学校別の保護者用ポータルサイトの運用を開始した(出典:守谷市、PDF形式)

奈幡氏 学校別ポータルサイトは、児童/生徒用に使っていた「Google Workspace for Education」を活用して構築しました。児童/生徒用に加えて、保護者用のアカウントを教育委員会で取得して保護者の皆さまに提供しました。児童/生徒用と保護者用を合わせると、約1万3000アカウントを発行したことになります。

 ポータルサイトの基本フォームは教育委員会で用意して、後は13ある小中学校がそれぞれにカスタマイズして使っています。フォームがあるかないかは大きな違いになると考えていて、急に臨時休校となった場合、あるいは急に臨時登校してもらうことになった場合の連絡はスムーズになると考えています。これがない自治体は、保護者と連絡を取るのも大変なんじゃないかと思います。

 ポータルの中では、いろいろな情報をやり取りできます。すると、保護者の意向をくみ取りやすくなります。従来は児童/生徒を介して紙で配付していた「お手紙」も、ペーパーレスで保護者に直接伝達できるので、伝達漏れによるトラブルも減らせます。

 特に小学校では、ポータルサイトの中に「オンライン授業サイト」というのを作る取り組みをしています。お子さんがタブレットをタップすると「出欠確認の部屋」に行ったり、「先生とGoogle Meetで会話をする部屋」に行ったり、「宿題を出す部屋」に行ったりということが容易にできます。

 最近は、他の自治体から私たちの取り組みについて問い合わせを受ける機会も増えました。しかし、いろいろとシステム面での話をすると「うちではちょっと……」という感想をいただくことが多いです。私たちはゼロから始めたわけではなく、2015年からの積み重ねがあっての話ではありますから……。

ポータルサイトでできたことポータルサイトでできたこと 学校別ポータルサイトによって、学校と保護者の連絡をデジタル化できた
ポータルサイトでできたことポータルサイトでできたこと 学校別ポータルサイトを活用して、校長や教師の紹介動画を配信したり、オンラインで授業参観や個人面談を行えるようにした学校もある。紙の連絡帳を廃止した学校もあるという

―― 私の息子が通っている中学校では、かなり早い段階でGoogle Workspaceの保護者用アカウントが配布されました。息子はサッカー部に所属しているのですが、2021年5月くらいまで紙で配られていた次月の予定表が、6月からポータルを介したオンライン配信に切り替わりました。ポータルがあったからこそ、今回のオンライン授業がスムーズにできたというのはおっしゃる通りだと思います。


 このように、守谷市では市立小中学校におけるICT教育に積極的な取り組みをしてきた経緯があり、児童/生徒はもちろん教員もオンライン授業になじみやすい素地があり、そのことが全クラスにおけるオンライン授業を実施するという判断につながったようだ。家庭でも比較的ICT環境が整っていることも伺える。

 ただ、学校でなされるICT教育と、原則として自宅から受けるオンライン授業には「似て非なる」面もある。また、やってみて初めて分かる課題もある。後編では、実際のオンライン授業の様子と、そのことによって見えてきた課題についてまとめる。

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