5月12日〜14日に、東京ビッグサイト(東京都港区)で教育に関する総合展示会「EDIX東京」が開催されました。教育に関する機器の紹介など、ブースもたくさん用意されていて、多くの教育関係者が来場していました。
EDIX東京では、複数のセミナーが開催されます。その中でも、文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」を受けた地方自治体(教育委員会)の取り組みを紹介する「GIGAスクール構想の実現に向けた各地の取組み」は、非常に多くの聴講者を集めていました。
この記事では、元教員である筆者の視点を交えつつ、このセミナーの模様を紹介します。学校ではどのような取り組みをしているのか気になる保護者の方はもちろん、どう指導を進めればいいのか迷っている現場の教員の方にも参考になるかと思います。ご一読いただけると幸いです。
以前執筆した記事でも触れた通り、筆者は2020年3月まで教員として働いていました。ちょうど、GIGAスクール構想による教育用端末の導入が始まる直前で職を辞したことになります。
当然、端末の導入に向けた準備は事前に進められるわけですが、筆者としては「なかなかうまく行かないんじゃないかな……」という印象を持っていました。というのも、これも以前の記事でも指摘した通り、若年層の教員や児童/生徒はICTを使うことに積極的な傾向にある一方で、年配の教員はICT(もっといえば機械)を教育に使うことに抵抗を持つ傾向にあるからです。
職場として「学校」を捉えると、民間企業と比べるといまだに「年功序列」が強い傾向にあります。ICTに明るくない年配の先生が「ICTを使わない!」となると、学校全体でもそうなってしまい、若手の教員はそれに従わざるを得ません。そうなると、児童/生徒もICTの恩恵を十分に受けられない――そう思っていたのです。
しかし、GIGAスクール構想は自治体あるいは学校が“独自”に取り組むものではなく、文部科学省が自ら推進しています。この事実は、学校において意外とプラスに働いているようです。というのも、学校の教員は、文部科学省からの通知や通達には素直に従う傾向にあるからです。
文部科学省は3月12日、都道府県教育委員会などに「GIGAスクール構想の下で整備された1人1台端末の積極的な利活用等について」という通知を行いました。この通知は、GIGAスクール構想による教育用端末がある程度行き渡ったことを前提に、端末を本格運用する際に留意すべき事項を再度点検するように促すものです。
この通知に基づき、都道府県教育委員会は市区町村教育委員会に対して、市区町村立小中学校(または義務教育学校)で点検を実施するように指示しました(※1)。指示を受けて市区町村教育委員会が点検した結果、本格実施に向けた課題があぶり出された例もあります。
(※1)政令指定都市を除く(政令指定都市の教育委員会は文部科学省からの通知を直接受けて、現場の小中学校などに指示することになります)
今回のセミナーは、先述の通知に添付された「GIGAスクール構想 本格運用時チェックリスト」を手がかりに、GIGAスクール構想を実現する上での工夫をパネリストが紹介するという構成で進められました。
パネリストは、指示を受け「監督」する立場の都道府県教育委員(長野県)、それを現場の学校に「指示」する市区町村教育委員会(新潟市、相模原市)、そして「実行」の現場となる学校(茨城県つくば市)と、それぞれの立場から集められました。新潟市はiPad、相模原市はChromebook、つくば市はWindows 10 Proと、GIGAスクールにおいて指定されている全てのプラットフォームから選定されてもいます。
セミナーを聞くと、今回参加している自治体が取り組んでいることに大きな違いはありません。共通しているのは、「教員と児童/生徒に抵抗なくICTを使ってもらう」という点に工夫を凝らしていることです。
例えば、つくば市ではWebサイトに児童/生徒に配布している資料を掲載しており、学習用端末の使い方をPDF文章や動画で確認できるようにしています。児童/生徒が家で使い方を再確認しやすいのはもちろんですが、保護者も子どもにどのような指示がなされているのかチェックしやすくなっています。
また、新潟市ではマンガを交えた説明資料を用意したり、教員向けの研修を積極的に行っているようです。保護者向けの案内も含めて、教育委員会が開設した「GIGA SUPPORT WEB」に情報を集約しています。
相模原市でも「教育の情報化」というWebサイトで主要な資料を公開していて、誰でも見られるようにしています。
ここまで見れば分かるように、パネリストの皆さんが所属する都市は、いずれも情報教育に関する情報を誰でも見られるような形で公開しています。
都道府県や市区町村の規模はさまざまです。それは学校も同様で、同じ自治体に規模の異なる学校が存在することは珍しくありません。学校間で情報教育に関するノウハウをしっかりと共有できている自治体もあれば、そうでない自治体もあります。
そんな中、長野県ではうまく行っている市町村の事例を、他の市町村に横展開したり、オンライン授業を教員に体験してもらう取り組みをしたりするなど、市町村を統括する立場を生かして県全体のICT教育の質を高める取り組みを行っています。うまく行っている事例を共有することは、高いレベルで足並みをそろえるという意味では重要です。
「ICTをどのように学校教育に取り入れるのか?」という点については、どの自治体や学校も苦心している様子が伺えます。パネリストが所属する自治体でも、いろいろな試行錯誤が行われているそうです。
その中で、「授業内でどんな学びをしていくのか?」というビジョンを、自治体内(あるいは学校内)の教員間でしっかりと共有することが重要という指摘がありました。先述の長野県のような取り組みを、目指すビジョンの共有も含めて進めていくべきだということです。
ICTのように、学教教育における「新しい」ものは、取り入れられたとしても使い方が分からなければ教員は活用できません。かといって、使ってほしいという思いが先立って「使え!」と押しつけるような形になってしまうと、かえって教員の抵抗感を高めてしまうことにもつながりかねません。
そこで重要なのが研修です。先述の通り新潟市では教員の研修を積極的に行っていますし、長野県でもオンライン授業体験の他、「クラウドサービス体験」や「出前講座」といった形で教員にICTを使ってもらうための取り組みを次々と行っています。
便利さを上手に伝えつつ、「使いたい!」と思ってもらえるように、教員をサポートしていくことが重要といえます。
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