未来を創る「子どもとプログラミング教育」

データで分かった生徒と教職員にとっての“最適な学び”とは? 東京都教育委員会の取り組み「Microsoft Education ICT教育フォーラム」レポート(第2回)(2/4 ページ)

» 2022年07月08日 13時00分 公開
[石井英男ITmedia]

職員室をDX化し学びも深化させた都立向丘高校

 続けて、先述の研究校に指定された東京都立向丘高等学校から石平幸教諭が登壇し、「学校の進化、学びの深化 〜MKG Lecture Lab.〜」と題する講演を行った。

 向丘高校は東京都文京区にある普通科全日制高校。1クラス40人編成で、在席生徒数は3学年で800人を超える。東京都教育委員会からは「進学指導研究校」「NIE(教育の中に新聞を取り入れる取り組み)指定校」にも指定されている。ある意味で、教育に関するさまざまな研究の舞台ともいえる。生徒と教職員が共に“リーダーシップ”を発揮する教育活動が特徴だという。

職員室にDX

 「情報のデジタル化」「業務の効率化」のために、石平教諭は職員室にある自分のデスク環境の改善に取り組んだ。書類のほとんどを電子化し、生産性向上のためにワイドディスプレイに投資したという。他の教職員も同様に、書類の電子化などを通して机上の整理を進めている。中には立ったまま使える「スタンディングデスク」もあるという。立ってパソコン作業をしている姿は、従来の「職員室」のイメージから一線を画しているといえる。

 学校の職員室ということを考えると、ワイドディスプレイやスタンディングデスクは、少し斬新なデジタルトランスフォーメーション(DX)にも思えるが、徐々にではあるが職員室のリノベーションが進み、表面的な意味で学校の“進化”の様子が伺える。

石平教諭のデスク 石平教諭自慢のデスク回り。ワイドディスプレイを導入して縦長にして利用している
教務主任 石平教諭の隣に座る教務主任のデスク回り。石平教諭のそれとは趣は異なるが、こちらもかなり整頓されている
2年目教員 こちらは就業2年目の教員のデスク回り。「今すぐに異動しても困らない」ほどにスッキリとしている
スタンディングデスク 通常のデスクの上に昇降スタンドを載せることでスタンディングデスク化した席もある

生徒の目標設定と振り返りを「フレームワーク」でやりやすく

 向丘高校における教育活動のコアコンピタンス(中核)を担うのは、「アドミッション(入学者の受け入れ)」「カリキュラム」「ディプロマ(卒業後の進路)」に関する3つのポリシーから構成される“グランドデザイン”だ。これは2017年度に策定されたもので、教職員の異動や入学と卒業による生徒の入れ替わりもあるため、グランドデザインについて理解を深めたり変更を考えたりする研修も随時行っているという。

 研修は「学び方等活動委員会」という学内組織が主導して実施されている。新しい学びの研究、グランドデザインや観点別評価に関する検討は5年前から始まっている。全職員がメンバーという共通理解の下で成り立っていることが特徴で、2019年度には「生徒の主体性育成」の核となる「ステータス(状況)チェック」が一部の教科で導入され、2021年度からは全教科に対象を拡大した。現在は、この取り組みの分析と効果検証に注力しているとのことだ。

向丘高校のグランドデザイン 向丘高校のグランドデザイン

 向丘高校では「リーダーシップ教育」に力を入れている。教育業界ではよく耳にするこの言葉だが、何をもって「リーダーシップ」とするのだろうか。

 一応の定義として、リーダーシップは「目標を達成するための他のメンバーに及ぼす影響力」とされている。前に立って引っぱっていく力はもちろん、チームのために話を整理し、記録すること、チームが機能しやすいように環境を作ることもリーダーシップである。端的にいうと、リーダーシップは誰でも発揮しうる能力で、育める能力でもあるのだ。

 同校では、立教大学の協力のもと、1年生の生徒に「リーダーシップ講座」を実施している。このリーダーシップ教育に基づく生徒の変容を読み取る指標を、同校では「ステータスチェック」と呼んでいる。これはいわゆる「自己評価ルーブリック」で、育成すべき資質や能力を22項目のリーダーシップ行動に分類することで、具体的な評価ができるようになっているという。

リーダーシップ 「リーダーシップ」と聞くと、特定の人物が発揮すべきものと考えられがちだが、向丘高校では誰もが発揮できる能力で、かつ誰もが育める能力であると考えているという
ステータスチェック 向丘高校における「ステータスチェック」の概要。育成すべき資質や能力を分類することで、具体的な評価をしやすくしている

 教職員の教科指導では、年度当初に特に力を入れて育成する資質や能力を設定し、生徒の変容を促すような授業デザインを行っているという。その上で生徒は学期に一度、1時間を使ってステータスチェックを実施しする。すると結果の差異について分析されたものがフィードバックされ、新しい目標設定を行うというシステムになっている。

 目標の設定や振り返りには「フレームワーク(どだい)」が用意されており、全ての学年と教室に掲示されている。同校では3つの目標の使い分け、「Good(良かったこと)」「Bad(悪かったこと)」「Next(次にすべきこと)」の振り返りをルーティン化させる指導を行っているという。

 石平教諭は、このような取り組みを通して生徒は主体性を身に付け、高校生活で得られる経験をもとに自身のキャリアを形成していくために必要な資質や能力を育成できると考えているという。

フレームワーク 目標の設定や振り返りを行うためのフレームワークをしっかり整えておくことで、結果の振り返りや次の目標設定を行いやすくしている。

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