C2PA規格は、デジタルデータの作成・編集に関わる情報の信頼性を確保するための仕組みとして設計されている。ファイルに固有のID(ハッシュ値)を割り当て、編集履歴を保存し、参照できるような仕組みとなっている。
もう少し具体的にいうと、写真の「撮影者」や「著作権者」は誰か、どのような「画像編集アプリ」で、「どのような画像編集を行った」のかといった情報がファイルに内包される形で記録される。写真1枚ごとに一意のID(ハッシュ値)が割り当てられることで、改ざんや不正転載された場合の検証がしやすくなっている。
カメラの撮影情報を記録するフォーマットとしては「EXIF」が広く普及しているが、C2PAはデータの信頼性を担保できる仕組みを持たせた点に特徴がある。EXIFと同様に、写真そのものに記載する情報はテキストベースのデータが中心となるため、ストレージ容量や通信トラフィックへの負荷は抑えられるという。
デモンストレーションで披露されたNikon Z 9の試作機による写真では、写真の撮影者や著作権者、撮影日などの情報が記録されていた。この写真をAdobe Photoshopで編集すると、どのような編集を行ったの履歴が記録される。検証用のWebサイトでは、元の写真の情報とPhotoshopでの編集履歴の両方を確認できるようになっていた。
C2PA規格は、メタデータに情報を組み込む形式を取っている。CAIは開発者向けオープンソースツールキットを無料で公開しており、開発者がアプリやハードウェアに組み込むことで、C2PA規格に対応できる。デジタルコンテンツのフォーマットは画像データ(JPEG、TIFF、DNG、PNG、SVG、HIEF、AVIF)、オーディオデータ(MP3、FLAC)、動画データ(MP4)に対応している。
C2PA規格は開発途上にある技術で、2022年12月時点では商用製品での採用例は少ない。カメラ専用機では、ニコンやLeicaは早ければ2023年からC2PA対応のカメラを発売する見通しだ。Adobe Photoshopでは「Contents Credential機能(β版)」として編集履歴の記録をサポートしている。また、CAIのWebサイト上で公開された確認ページで「コンテンツ認証情報」を表示することも可能だ。
来歴記録機能のはあくまで研究開発中の技術で、実用化されるまでにはハードルも存在する。
技術上の主な課題は、ハッシュ値の割り当てに相応の演算処理を要することだという。特に画像処理に特化したカメラ専用機の場合は、演算処理に専用の処理チップを追加するなどの工夫が求められる。
ニコンによると、市販製品でのC2PA対応予定は現時点では存在せず、試験で使われているNikon Z 9に対してファームウェアのアップデートで機能を実装するかどうかも未定とのことだ。
加えて、C2PAはあくまでも写真などの“素性”を確認するだけのツールで、写真の改ざんや無断複製を抑止する機能は備えていない。悪意のある人がC2PAのハッシュ値を削除して転載することは防げない。
こうした技術的な背景もあり、C2PAの来歴記録機能は当初、報道機関や写真家などのプロフェッショナル向けの製品から、段階的な普及が見込まれる。ニコンは将来のフラグシップ製品から段階的にC2PA対応を進める方針である。
一方で、来歴記録機能の信頼性を高めるためには、多くの人が使える検証手段として普及する必要がある。その過程では、スマートフォンなどの多くの撮影機器で対応し、編集ソフトウェアやSNSなどに幅広く対応することも求められる。アドビはCAIを主導する企業として、幅広いスマートフォンメーカーへCAIおよびC2PAへの参画を促していくという。
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