巻き返しの準備を進める「Intel」 約束を果たせなかった「Apple」――プロセッサで振り返る2022年本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

» 2022年12月31日 21時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

「Ultra Fusion」での局面打開は断念?

 拡張性や絶対的な性能における“答え”をまだ見いだせていないApple Siliconだが、M1チップを起点として、M1 Proチップ、M1 Maxチップ、M1 Ultraチップと性能を高めてきた例を振り返れば、M2チップでも同じような展開をする可能性は否定できない。

 まず同チップを基礎に「M2 Proチップ」を開発し、GPUコアを始めとするメディア処理のリソースを最大2倍とした「M2 Maxチップ」を作り、台湾TSMCの「InFO-LIパッケージング」を応用した接続インタフェース「Ultra Fusion」を使って、M2 Maxチップを2基連結して「M2 Ultraチップ」とする――そんな感じである(SoCの名前はいずれも仮)。

M1 Ultraチップ M1 Ultraチップは、TSMCのInFO-LIパッケージングを応用した接続インタフェース「Ultra Fusion」を使って2基のM1 Maxチップを“連結”したような設計となっている

 M1チップからM1 Proチップへの展開では、主にクリエーターの利用を想定してCPUコアやGPUコアの構成を見直した上で、動画をエンコード/デコードする「Media Engine」が追加された。M2チップに対するM2 Proチップが登場する場合は、何らかの構成における見直しが入る可能性はある。

 だが、繰り返し指摘してきた通り、Apple Siliconのアーキテクチャでは、Mac Proが満たしてきた拡張性や絶対的な性能を求めるニーズは満たせない。もう少し具体的にいえばとにかく大量のメモリ、あるいは大量のGPUコア(グラフィックスカード)が必要なシーンには不向きである。

 「なら、SoCに搭載する共有メモリの容量やGPUコアを増やせば何とかなるのではないか?」と思う人がいるかもしれない。しかし、そうするとチップの面積が大きくなってしまい、Apple Siliconのメリットの1つである「費用対効果」が失われてしまう。

 Mac miniにIntel CPUモデルが存置されているのも、M1モデルでは満たせない「コンパクトながらも高い拡張性」を満たすためだろう。ただし、M2 Pro(仮)の仕様によっては拡張性(インタフェース)回りの課題は解消できるかもしれない。

Mac mini Mac miniは、M1チップモデル(上)とIntel CPUモデル(下)でポート類の構成が異なる。拡張性の観点からIntelモデルが存置されているものと思われるが、M2 Proチップ(仮)の仕様によっては、その問題は解消できそうである

 インタフェース回りは、SoCの設計次第である程度はどうにかなる。しかし、繰り返しだがメインメモリやGPUコアの増量(≒Mac Proに見合う設計)は、現状のApple Siliconの設計では難しい面がある。そんな中、うわさとして浮上したのが「M2 Extremeチップ」という新型SoCの計画である。

 CPUのbigコア(Pコア)とLITTEコア(Eコア)の構成には諸説あるが、M2 Proチップ(仮)はCPUコアが最大12基、GPUコアが最大19基という構成で、M2 Maxチップ(仮)はGPUコアが2倍の最大38基とし、M2 Ultraチップ(仮)はUltra FusionでM2 Maxチップを2基連結することでCPUコアを24基、GPUコアを76基に強化すると言われている。

 M2 Extremeチップは、Ultra FusionでM2 Ultraチップを2基(=M2 Maxチップを4基)連結し、CPUコアを48基、GPUコアを152基とする“野心的な”設計だという。チップを連結する分、共有メモリのチャネル数や容量、帯域幅はM2チップ比で最大16倍にできる(帯域幅については、設計次第でさらに広がる可能性はある)。共有メモリの容量の理論上の上限は384GBとなるため、現行のMac Proのニーズもある程度まで満たせる。

 ただ、幾つかの報道によると、M2 Extremeチップの計画は断念されたという。M1チップファミリーと同様にM2 Ultraチップ(仮)が最上位SoCとなる可能性が高まったということだ。もっとも、M2 Extremeチップを搭載するMacが登場したとしても、個人ユーザーには全く関係のない(手の届かない)価格帯になることは間違いない。

 単なるうわさ話になって申し訳ないが、2022年、どのようにしてAppleが共有メモリアーキテクチャを維持しつつ、Mac Proの領域に踏み込むのかを注目していただけに、まだ答え合わせができないのは残念である。

Mac Proのメモリ 搭載するCPUにもよるが、Mac Proは最大で1.5TBのメインメモリを搭載できる。“絶対的に”メモリ容量が必要なニーズを満たすApple Siliconの登場は難しい状況になる

TSMCが年末ギリギリで「3nmプロセス」を立ち上げ

 そして忘れてはならないのが、TSMCが2022年末というタイミング(12月29日)で3nmプロセスの量産開始を発表したことである。発表するということは、すでに試験(パイロット)生産はかなりやり込んでいるはずである。十分な経済合理性がある中でのローンチと捉えていいだろう。

 3nmプロセスでの半導体の量産は、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に続くものである。ただ、ここ数年における新プロセスの生産状況を考えると、TSMCの3nmプロセスは、Appleがかなりのキャパシティー(生産量)を先行して確保している可能性が高い。iPhone 15シリーズ(仮)向けの「A17 Bionicチップ(仮)」は、このプロセスで量産されるかもしれない。

 一方、従来の最新ラインだった「改良型5nmプロセス」で生産されると思われていた「M2 Proチップ(仮)」以降のMac向け新型SoCは、例外的に3nmプロセスに移植した上で生産される可能性もある。M2 Extremeチップ(仮)の開発が断念されたとしても、M2 Ultraチップ(仮)までのバリエーションなら、改良型5nmプロセスで2022年内に発売できたと思われるからだ。TSMCとAppleの深い関係を考えれば、早いうちにM2チップから派生するSoCを3nmプロセスでの設計に切り替えていた可能性すらある。

 プロセスの微細化を優先したと考えれば、MacのApple Siliconへの移行が予定よりも遅れたことは納得はできる。TSMCによると、3nmプロセスの半導体は5nmプロセスに比べて最大35%の消費電力を削減できるという。M2チップの高性能派生SoCを開発する上でのさまざまな課題(特に消費電力)を解決するにはピッタリである。

 ……と、2022年を振り返るつもりが、2023年の予想をしてしまっていた。これが“正解”かどうかは、2023年の年末に答え合わせすればいい。

TSMC TSMCが12月29日、3nmプロセスでの半導体の量産を始めたことを発表した。ここ数年の新プロセスの立ち上げ状況を考えると、同社の3nmプロセスの多くはApple製品で占められている可能性が高い

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー