「Bing」の大幅アップグレードでGoogleを追撃!? Microsoftが「OpenAI」に最大100億ドルの投資をするワケ本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)

» 2023年02月08日 06時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

OpenAIがMicrosoftの出資を受け入れた理由は?

 先日のChatGPTのレビューでも少し触れた通り、GPT-3は誤った応答をすることもある。しかし、このことはOpenAIのAIモデルが無価値であることは意味しない

 OpenAIが公開しているChatGPTはあくまでも技術的ショーケースであって、特定の用途にカスタマイズされているわけではない。加えて、学習文献が比較的少ない日本語でのテストは不利ということもある。だが、ChatGPTをよく試してみると、生成される回答(文章)は比較的自然で、チャットを繰り返すと一定の会話も成立する。

 彼らOpenAIの技術は、間違いなく優秀である。しかし、これだけでは最大で100億ドル、日本円換算で1兆円超の投資する理由には乏しいような気もする。Microsoftは、どうやって投資を回収するのだろうか?

ChatGPTの会話 ChatGPTは、日本語の質問に対して英語で答えるといった場面も見受けられるが、会話を繰り返すことで「最も確からしい」回答に近づけるようになっている。質問(チャット)に対する受け答えもしっかりしている

 その方法の1つとしては、Microsoftが提供するアプリに特化(最適化)したAIモデルを作ることが考えられる。「Word専用」「Excel専用」といった具合にアプリごとにAIモデルを作ることで、各アプリの優秀なアシスタントを作るという寸法だ。

 例えばWord専用AIモデルであれば、Wordのドキュメントを読み込んで自動的に要約するといったことも考えられる。その要約文をPowerPointに渡すと、PowerPoint専用AIモデルがそれに沿ったプレゼンテーションシートを生成してくれる……なんてこともできるかもしれない。

Microsoft 365 Microsoftはおのおののアプリに最適化された形でGPT-3を実装する可能性もある

 各アプリに最適なAIモデルを搭載――言葉にすると簡単そうに見えるが、AIモデルの作成には思っている以上にコストがかかる。

 細かな数字はさておき、大規模なAI(推論)モデルを動かすには、それに見合った演算能力(サーバや演算アクセラレーターなど)が必要になる。規模が大きくなれば、学習用データを用意するための費用もかさむ。いくら優秀なAIモデルを動かしたとしても、学習に用いる「教師データ」が優れていなければ、格調高い文体で“誤った”文章を理路整然と吐き出すだけの役立たずになってしまう。

 例えば、GPT-3のAIモデルは1750億ものパラメーターを持つ大規模なものだとされている。学習だけでなく、サービスを維持するための各種費用、クラウドサービスの利用料金、顧客へのサポートを提供するための費用……と、思いつくだけでも必要なコストはいくらあっても足りない。

 各種プロセッサの処理効率の向上や消費電力の改善によって、演算そのものに掛かるコストは徐々に下がるだろう。だが、インターネットの世界を駆け巡る情報量は加速度的に増加し続けている。演算コストが下がっても、その能力増強で相殺されてしまうことも想像に難くない。

 元々は非営利の研究開発プロジェクトとして発足したOpenAIだが、Microsoftからの資金注入を受け入れ、同社にGPT-3のコードへのアクセスを独占的に認めた背景には、巨額な資金を必要としていたという事情もあったようである。今後、静止画に関するAIサービスを拡充したり、あるいはその範囲を動画に広げたりしようと考えると、強力な“後ろ盾”が必要だったということである。

2019年の提携 2019年7月に発表されたMicrosoftによる10億ドルの投資は、今までオープンに進められてきたOpenAIの取り組みと反する面もあり議論を呼んだ

 OpenAIの強力な後ろ盾となったMicrosoftは、実際にどのように同社の技術を取り込んでいくのだろうか。先に挙げた「アプリごとに特化したAIモデルの実装」以外にも、幾つかのシナリオが考えられそうである。

 純粋にOpenAIの技術にアクセスした上で、同社が開発するAIモデルについて共に研究を行い、さらに自社のクラウド基盤であるAzureを通してあらゆる学習を行う。この際に、Azure自身をOpenAIの技術に最適化していくことで、AIプラットフォームとしての高いパフォーマンスや信頼性を獲得できるだろう。

 さらに、OpenAIのAIモデルをベースに開発したアプリを、「より高付加価値なAPI」に仕立てて有償提供する、というビジネスモデルもあり得る。

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