脳腫瘍から始まったデジタル終活ツール「まもーれe」古田雄介のデステック探訪(2/3 ページ)

» 2023年06月29日 06時00分 公開
[古田雄介ITmedia]

徹底してローカルで備える理由

 まもーれe Liteは、初期設定とパスワードを変更するとき以外はオフラインで扱える。NASや外付けHDD内のフォルダーを登録することもできるが、基本的にはローカルで全ての備えを完結するデザインだ。SNSやサブスクの契約もIDやパスワードのリストをデバイス内で管理することでローカル化する。

 このコンセプトは、まもーれeを開発した前野泰章さんの実体験に根付いている。

 セキュリティソフトの販売などを手がけるMONETの経営者である前野さんが、自らの身体の危機を知ったのは2016年9月のことだった。

 「ずっと元気に過ごしていましたが、10年くらい健康診断を受けていなかったので、仲間から『いい加減受けろ』と怒られまして。せっかくだから人間ドックに脳ドックまでつけて受けてみたんです。その脳ドックでひどい腫瘍が見つかりました」

 すぐに外科手術が検討され、6週間後に手術することが決まった。同時に手術の結果、命を落とす確率も少なくないと告げられた。

 自分の人生に残された時間は、この6週間だけになるかもしれない。前野さんは経営者として、1人の人間として、大急ぎで「終活」を進めることになる。自分がいないと成り立たない事業は畳むしかないと決断して、全国のクライアントに謝って回った。その間の隙を縫って、預金口座や保険契約、仕事で共有すべきファイルなどを整理していく。死後にFacebookで発信してほしいメッセージも日本語と英語版を用意し、それらをまとめたUSBメモリを弟に託した。

 「普段から多少は整理していて、やるべきこともある程度見えていましたが、それでも6週間でギリギリでした」(前野さん)

 死を覚悟して臨んだ手術は幸いにもうまくいき、半年後には退院する。会社は閉じなかったが、元の事業は既に整理しきった後だ。これから何をしようか。そう考えたとき、この6週間のことが浮かんだ。弟に渡したUSBメモリのような設定を、一箇所でできるツールを作ろう。そうして2019年6月にリリースしたのがまもーれeだった。

まもーれe デステック MONET 2017年3月に営業を終了するリリースを発信した

 開発で重視したのが、ローカルで完結することだ。

「セキュリティを考えるとクラウドという選択肢は持てなくて、とにかく手元に置くというところからスタートしました。クラウドに置くと何かあるたびに外部にアクセスする必要が発生しますし、何より『秘密データ』に関する情報を預けるのも嫌だなと」(前野さん)

 クラウドを利用すると管理の一部を外部に委ねることになる上、提供する側のコストもかかる。まもーれeはLite版をユーザーに無料で提供し、相続に携わる士業などに向けたPro版で収益を計算していく道筋を作っている。収益化までの時間的な余裕を確保するにもローカル設計はプラスに働いているという。

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