林信行が見てきた「Twitter」の美学と信念 この十数年を振り返って(4/4 ページ)

» 2023年07月24日 20時15分 公開
[林信行ITmedia]
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Twitterが画期的だった理由

 以上がTwitterに投稿した「Twitter遺言」の全文だが、せっかくなのでもう少し加筆しよう。「Twitter」というサービスの名前は今日を機に無くなってしまうかもしれないが、このサービスはいくつもの点で画期的だった。

 Twitterの登場前にも「Orkut」や「Friendster」などいくつか海外製SNSが日本で広まったことはあったが、マスのユーザーまでは浸透しなかった。一般大衆の多くは海外製のサービスよりも「mixi」や「GREE」(昔はSNSサービスを運営していた)といった国産サービスだけだった。

 しかし、その壁を超えて、ついにマスにまで広がった最初のソーシャルメディアがTwitterだった。

 同様に海外の携帯電話は以前から日本で売られていたが、マスにまで受け入れられる端末はなかった。その壁を最初に越えたのがほぼ同時期に誕生した「iPhone」だった。

 私はこのiPhoneとTwitterの2つが世の中に起こした社会変化を「iPhone」の「i」と「Twitter」の「T」をとって「iT革命」と呼び、「iPhoneとTwitterはなぜ成功したのか?」という書籍で、それまでの製品やサービスとのデザインアプローチの違いなどについて書いた。

 iPhoneとTwitterは最初から相性が良く、App Storeがオープンする前からiPhone上でTwitterを利用するためのアプリケーションがいくつか登場していた。特にTwinkleというアプリは、ツイートにGPSによる位置情報を埋め込めたので、周囲のツイートだけを絞り込み表示できた。

photo 位置情報でツイートを絞り込み表示できた。協力:Kem/けむ さま(@Deutschina)

 この機能を使って知り合ったのが、六本木にあった豚しゃぶのお店「豚組しゃぶ庵」だった。当時ヤフーの広報をしていた友人が、Twinkleの位置情報サービスを通して店のオーナーと知り合いになり、試しに訪ねたのが始まりだった。

 その後、TwitterやiPhoneが日本で本格的に普及し始めると、豚組しゃぶ庵はTwitterで知り合った人同士が集まる聖地になった。頻繁にイベントが開かれるようになり、Twitterをうまく活用したマーケティングもさまざまな媒体で取り上げられた。

 当時、私が行っていた講演でTwitterの何がすごかったのかという重要ポイントを3つ挙げていた。

 何といっても強いのは140文字という短文サービスなため、ブラウザやクライアントアプリの1画面に多くの情報が集約できたことだ。これによって予想外の情報とのセレンディピティーが増えた。

 そこにさらに時間軸/親密軸/空間軸/興味軸という4つの軸が加わった。

 iPhoneやTwitterが登場した頃には、ブログも普及して世の中にデジタル情報があふれ始めていた。人々は常に吸収できる以上の情報にさらされていた。そんな情報の洪水の中で、人々の関心を引くことができるのが時間軸/親密軸/空間軸/興味軸という4つの軸だ。

 Twitterでは、常に視線が向きやすい画面の上部に最新の投稿が表示される。Twitterが盛り上がり始めた当初、自分の居場所や、やっていることに「なう」をくっ付けてツイートするのがはやったが、人々は録画されたスポーツの試合よりも生放送の試合に興味を引かれる。昨日起きた事件の情報よりも、今、この瞬間に起きている事件、今この瞬間食べているものの写真などの興味を引かれる。この時間軸の魅力がTwitterにはあった。

 では、親密軸とは何かというと、昔のTwitterのライムラインには自分がフォローしている人の情報だけが流れてきた。

 誰か知らない人がお勧めしている本よりも、親しい友達が勧める本の方が興味が湧くのが人間である。Twitterの昔のタイムラインはフォローしている人のツイートしか流れてこないので、この親密軸の条件も満たしていた。

photo 親密軸と時間軸、空間軸の関係性

 3つ目が空間軸で、これはiPhoneとTwitterが結びついて人々が外出先でもTwitterを使うようになってからだ。ツイートに場所の情報を入れると、それだけでツイートに対する反応が良くなる。

 例えば「今、大阪に着いた」とツイートすると、それなりに反応が来る。さらに「今、堂島の橋を渡っている」などとツイートをすると「そこのすぐ横にあるロールケーキ屋がおいしい」といった強い反応が返ってくる。

 「東横線の終電、走って何とか一番後ろの車両乗れた」とツイートすると、「私はその電車の先頭車両に乗っています」と反応が返ってくる。

 位置を絞り込めば絞り込むほど、強い反応が返ってくるのも十万人以上のフォロワーとのやりとりを通して体験的に学んだことだった。これに加えてハッシュタグを使ってフォローしていない人と興味軸でつながれるという強さもあった。

 その後、Twitterは変化を続け、最近ではタイムラインに表示される情報がコントロールされすぎて、しばしば問題になっていたのは確かだ。改名したサービスが、こうした問題にどう対処していくのかは気になるところだが、サービス名が変わった段階で、私のTwitterに対する愛着は一度完全にリセットされることだろう。

 今後もフォロワーの役に立てるように情報の発信は続けるつもりだが、新サービスが再び私の心をつかむ日は訪れるのだろうか。そうなることを期待しつつも、これまでイーロン・マスク氏がTwitterのオーナーになってからしてきた数々のイタズラが、私を不安な気持ちにさせている。

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