林信行が見てきた「Twitter」の美学と信念 この十数年を振り返って(3/4 ページ)

» 2023年07月24日 20時15分 公開
[林信行ITmedia]
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東日本大震災とTwitter ネガティブな人たち

 日本がTwitterの重要さを一番強く認識したのは、2011年3月の東日本大震災だろう。このとき、電話回線が使えない状況でも、WiMAXなどの回線は利用者が少ないため快適につながった。当時、既に十数万人のフォロワーがいた私は渋谷周辺の様子を写真付き投稿しながら午後を過ごし、タイムラインを必死に観察しながら「どうやったら役に立てるか」を考えた。

photo 311当時の渋谷駅周辺
photo 街のTVに情報を求める人々

 まず思い付いたのは、状況が分からずにいる海外の人達だ。NHKニュースなどで得た情報を逐次、英語に翻訳してツイートしたり、困惑している人を検索して解説をしたりしていた。大使館からの情報もRTした。翌日からは被災地の人たちのツイートの観察を始めた。行方不明者の氏名住所電話番号といった生の情報が流れてくるのを、本人の前後のツイートを確認した上でRTした。

 物資が足りていない被災者や病院、炊き出しや水の配給などの情報もRTを続けた。同じ頃、ハッシュタグを通して名前だけしか知らない芸能人(アイドルや俳優の方々)などもフォロワー数が多い責任感から同様のことをしているのを知って親近感を感じた。

photo 「#save_都道府県名」で情報発信をする人々も。震災発生から3〜4日は半徹夜でこの画面を見続けて、被災地のニーズを探っていた。多くの人が善意で情報発信するものの、思慮が足りず逆に情報を押し流している事態をはがゆく思い、こんなブログ記事も書いた「インパクトの少ない情報支援を心がけたい

 しかし、そうした人々に「売名行為」だと、なぜかネガティブな返信をする人達も大勢いるのを見て、ものすごく残念に思った。名前は忘れてしまったが、当時(おそらくかなり人気の)アイドルの女性の方もすごい罵倒の声を浴びながら、それでも吟味して大事な情報をRTしている姿に何かすごいやるせないものを感じた。

 その後、原発の議論が出始めると、言葉のぶつかり合いはさらに激しさを増し、それが原因でTwitterを退会する人も出てき始めた。

 匿名の人がおらず、気心知れた人達だけと情報交換ができるFacebookへの移行が進んだのもこの時だったように感じている。

 東日本大震災は、Twitterを通してのデマや偽情報などの問題も露呈させた。しかし、技術そのものが悪ではなく、人々が情報がどう届くかを考えずに利用していることに原因があると思い、「公式RTのススメ」であったり、どのように伝言ゲームで善意の情報が偽情報に変わるかなどを解説した記事を書いた。

 その後もTwitterは災害の度に威力を発揮した。日本では地震が起きた時も皆がまず見るのがTwitterと言う状況は変わらなかった。

 東日本大震災でTwitterがどのように役立ったかを取材する海外メディアが増え、私はGoogleのまとめページ「東日本大震災と情報、インターネット、Google」に、山路達也さんと連載を書いたのを始め、いくつか海外メディアの取材も受けた。

140文字の情報量 トランプ政権の誕生

 海外の人々は、同じ140文字でも外国語と比べて日本語がどれだけの情報を発信できるかに着目していた。gengo.comが私のツイートを英語に翻訳するサービスなどをやっていたが、大体、日本語の1ツイートが英語3ツイート分だった。

 そんな情報をしばらく発信していると、Twitter社は英語ツイートの文字数を140文字から280文字に引き上げた。

 Twitterに再び変化が現れたのはトランプ政権の誕生だ。オバマもTwitterをうまく積極的に活用する大統領ではあったが、トランプの使い方は明らかにその比ではなかった。「Post-Truth」という言葉も生み出した伝説の“うそつき大統領”は、Facebook広告などが理由で誕生したが、彼が好んで利用したのはTwitterだった。

 ここからTwitterの残念な利用方法が数段階レベルアップ(ダウン?)した。世の中の分断はひどくなり、それが原因でTwitter社は実質的にトランプをTwitterから追い出すことになる。しかし、これが独善的なイーロン・マスク氏がTwitter社を買収する状況の遠因となった。

 ずっとサービスを黒字化できなかったのも、もちろん問題だ。だが、サービスを作ったジャック・ドーシー氏らには少なくとも良いサービスを作るための美学があった。お金だけのイーロン・マスク氏が、金の暴力でサービスを好きなようにできてしまうことに、久しぶりにシリコンバレー資本主義の絶望を見た。これからサービス名が変わっても、多くのフォロワーがいるし、相変わらず情報を素早く広く広がるツールとしての性質は変わらないだろうから利用は続けると思う。

 ただ、これまでのように愛情を持ってサービスに接することはもうできない気がする。Twitter、確かに問題も多かったが、全体としては世の中に良い変化をたくさんもたらした素晴らしいサービスだった。このサービスと共に過ごせた15年近くは私にとっても宝だったと思う。

(PC USER編集部が一部編集)

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