Intelの最新CPUを支えるテスターはロボと人力! マレーシアのキャンパスで行われていること大人の社会科見学(3/4 ページ)

» 2023年10月09日 12時00分 公開
[西川善司ITmedia]

問題点が出る前の“対策”も研究しテル!

 開発途中、あるいは量産初期段階の試作CPUは、うまく動作しなかったり、動作しているように見えても厳密なテストで不具合が見つかったりすることがある。ある程度量産が進み、出荷された製品の特定ロットにおいて芳しくない不具合が見つかる事例もある。

 ペナンキャンパスには、そんな各種不具合を調査/分析する「Failue Analysis Lab(FAL)」が設置されている。

FA Labの様子 Failue Analysis Labに置いてあった、Core Ultraプロセッサのベースダイ。ベースダイには、配線とキャッシュメモリなどが形成されている

 開発途中、あるいは量産試験中の試作CPUは、理論的な世界では“完璧”であっても、現実の物理世界において長く稼働することで当初は想定していなかった発熱や疲労が顕在化することがある。このラボではそのような事態が発生した際に、高度な専門知識を持ったエンジニアが、日々さまざまな計測機器とにらめっこをしつつ解析を行っている。

 実際にどんな異常が起こり得るのかという具体例は、下に示した写真を見てほしい。

エラッタ 2台のテスト用PCで「3DMark」を実行してCPU内蔵GPUのテストを行っている様子。ポイントは画面のきらめいている部分で、下の画面が「正常」、上の画面が「異常」である。というのも、このきらめきは本来、別のオブジェクトによって遮蔽(しゃへい)されて表示されないはずのものなのだ。異常のある方のCPUでは、何らかの理由で深度判定ミスが起きているものと思われる

CPUの「ボイド」「ヒロック」は顕微鏡で観察

 Intelが得意なCPU製品に限らず、半導体デバイスというものは長時間連続稼働させるなどして電力負荷が掛かり続けると「エレクトロマイグレーション(Electromigration)」と呼ばれる現象が誘発されることがある。これは、半導体内部の微細な金属配線部に高い電気密度の電流を流し続けることで、配線部の金属原子が−極方向から+極方向へ移動してしまい、結果として「ボイド(空げき)」や「ヒロック(小規模な突起)」が発生してしまう現象をいう。

 一方、半導体デバイスは、長時間連続稼働させた際に、局所的な発熱が大きくなりすぎると「ストレスマイグレーション(Stress-induced Migration)」が誘発されることもある。これは、半導体チップ内の微細な「金属配線部」と、樹脂系組成物を始めとする「絶縁層」との間で熱膨張率が異なることから、発熱時の膨張あるいは冷却時の収縮によって物理的な応力が働き、物理的な「破損(=ボイド)」が生じることをいう。

 どちらにせよ、ボイドやヒロックの発生具合によっては配線の断線/短絡が起こったり抵抗値の変異が起こってしまうため、よくないことなのだ。

 このようなボイド/ヒロックへの対処も、FALの仕事の1つである。このセクションで見つけた機材で興味深かったのが、超音波顕微鏡(SAM:Scanning Acoustic Microscope)だ。

 超音波顕微鏡はCPUダイに対して超音波を当てて、その内部を超高解像度で観察できる顕微鏡だ。仕組み的には、病院にある「超音波(エコー)診断装置」とほぼ同じと考えていい。

撮影中 超音波顕微鏡でCPUダイを撮影している様子。超音波顕微鏡による撮影は、超音波ヘッドを動かしてのスキャニング撮影となる

 ここで疑問なのが「なぜ電子顕微鏡やX線顕微鏡を使わないのか?」ということだ。

 まず、電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)だが、基本的にはダイの“表面”しか見られない。内部を見たい場合はCPUダイを破壊する必要がある。

 そしてX線顕微鏡(XRM:X-Ray Microscope)は、CPUダイを破壊せずに観察できるという大きなメリットがある一方で、稼働時の消費電力が大きく、撮影者の身体への影響も考慮しなければならないという、無視できないデメリットもある。

 その点、超音波顕微鏡はX線顕微鏡のようにダイの内部を破壊せずに観察できる上、X線顕微鏡と比べて価格は安く、消費電力も低い。加えて、CPUダイ(半導体)に通電している状態でも撮影できる。ゆえに、ボイド/ヒロックに関する調査で重用されているのだ。

 ただし、超音波顕微鏡にもデメリットはある。それは撮影解像度だ。電子顕微鏡やX線顕微鏡と比べると、超音波顕微鏡の映像はどうしても解像度が低くなってしまい、細かい部分を観察したい場合に苦慮する可能性がある。

 そこで実際の作業現場では、作業内容に応じて使う顕微鏡を変えている

撮影結果 超音波顕微鏡による撮影結果が、作業員の端末の画面に出てきた

サーモグラフィーによる解析も実施

 この他、FALでは「ロックインサーモグラフィー(LIT:Lock-in thermography)を用いた解析作業も行われていた。

 ロックインサーモグラフィーは、高性能な赤外線カメラを使って、CPUダイ上の熱分布を計測し、熱変化を時間単位で記録できる装置だ。いうなれば「熱分布の動画撮影カメラ」である。

ロックインサーモグラフィー ロックインサーモグラフィー装置の全景。右側の画面にCPUダイのサーモグラフィーが出ているのが見える

 普通のサーモグラフィーと比べると、ロックインサーモグラフィーは測定対象に与える電力負荷の周波数と、撮影時の周波数をロックイン、つまり同期させることができる。これにより、1000分の1度単位の細かな温度測定を行える

 測定対象のCPUやデバイスに対して、特定の動作をさせたときの異常過熱などを分析するのに役に立つ装置というわけだ。

寄り ロックインサーモグラフィーで撮影している様子をアップで見てみる

 このように、FALではさまざまな機器を駆使して、測定対象のCPUを観察し、問題の原因の探求、あるいはトラブルを未然に防ぐための改良案を考案していく。ゆえに、かなりエンジニアリング志向の能力を持った作業員が求められる。

情報集約 さまざまな機器を駆使して情報を集約し、考察した上で“気になる箇所”への干渉(修正や改善)を試みる

 FALでの作業の様子も、動画があるのでチェックしてみてほしい。

Failue Analysis Lab(FAL)の様子

 次は、Intelが自社製品の品質を維持/向上するための取り組みを紹介しよう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年05月08日 更新
  1. SSDの“引っ越し”プラスαの価値がある! 税込み1万円前後のセンチュリー「M.2 NVMe SSDクローンBOX」を使ってみる【前編】 (2024年05月06日)
  2. M4チップ登場! 初代iPad Proの10倍、前世代比でも最大4倍速くなったApple Silicon (2024年05月08日)
  3. 出荷停止となったAmazon認定スタンドの空席を埋められる? 「Fire HD 8 Plus」「Fire HD 10 Plus」に対応したサードパーティー製ワイヤレス充電スタンドを試す (2024年05月07日)
  4. iPadに“史上最大”の変化 「Appleスペシャルイベント」発表内容まとめ (2024年05月07日)
  5. iPad向け「Final Cut Pro 2」「Logic Pro 2」登場 ライブマルチカム対応「Final Cut Camera」アプリは無料公開 (2024年05月08日)
  6. Core Ultra 9を搭載した4型ディスプレイ&Webカメラ付きミニPC「AtomMan X7 Ti」がMinisforumから登場 (2024年05月08日)
  7. Apple、新型「iMac」「iPad Pro」「Apple TV 4K」を5月21日に発売 (2021年05月19日)
  8. AIに予算20万円以下でピラーレスケースのビジネスPCを組んでもらって分かったこと (2024年05月04日)
  9. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  10. 有機EL&M4チップ搭載の新型「iPad Pro」発表 フルモデルチェンジで大幅刷新 Apple Pencil Proも登場 (2024年05月07日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー