2017年前後、IntelはCPU製品の開発や最新技術の開発につまずいたこともあった。しかし、近年では巻き返しを図るべく、攻勢を増している。特に前編でも触れた「IDM 2.0構想」を掲げた後に登場したCPU製品については、ユーザーからの支持も復活しつつある。
この好調ぶりは、同社の近年の技術開発が好調だからであろうということは、改めていうまでもないかもしれない。
この“復活劇”を陰で支えているのが、自社開発のテスターや開発支援機器(以下「テスター類」だ。
そうした機器について、「わざわざ自社開発するくらいなら、『餅は餅屋』的に専門メーカーの汎用(はんよう)品を購入した方が安上がりなのでは?」という意見もある。しかし、開発中のCPUが、現行技術をはるかに超えた微細度で作られていたり、より高クロックで動作したり……と、次世代の技術をベースにしている場合、そもそも汎用品が存在しない。よって、自社開発せざるを得ないというのが正確な所である。
さて、そんな自社開発のテスター類だが、マレーシアのクリムキャンパス内にある「Intel System Integration and Manufacturing Services(SIMS)」という専門部署が開発/製造している。ここで作られるテスター類は、その目的に対して高度な最適化を図る傾向にあり、余りにも“独自仕様”であるがゆえに、社外に販売されることはないという。端的にいえば、Intel以外の企業では使い道を見いだせないということだ。
今回は、SIMSで開発/製造されているテスター機器が2つ、製造工程と共に紹介された。
1つは「High Density Burn-In(HDBI)テスター」だ。これは、前編で紹介した「Burn-In Test(焼き入れテスト)」で使われる機材である。
このテスターは、製品として完成したCPU製品を実際に低温/高温状態にしたり、定格よりも高い電圧を掛けたりと、「ストレス状態」における基本動作試験を行う際に使われる。CPUをつかんでテストソケットに装着するまでのプロセスが自動化されている他、「High Density(高密度)」という名前の通り、複数のCPUを並行してテストできるようにもなっている。
HDBIテスターは、テスト対象のCPUをロボットアームがつかんではソケットに“押しつける”動作が何度も何度も繰り返される。そのため、基板に求められる耐久性は相当なものだそう。実際、HDBIテスターのメイン基板は、見たことがないくらいの分厚さであった。
2つ目は「High Density Modular(HDM)テスター」だ。このテスターは、「System Level Test(SLT)」というテストで使うためのものだ。
SLT自体は、前編で解説した「Platform Performance Validation(PPV)工程」に相当する。生産されたCPUが、実際のコンピュータ製品の状態に収まった状態にと極めて近い動作試験を行うものになる。それこそ、実際に外付けGPU、SSDなどのストレージデバイス、USB関連機器などの各種周辺機器との連携動作を、Windowsなどの実在OSでの動作下で行われる。
なお、SLTはHDMテスターのフロントエンドを務める「HDM System Tester(HST)」と組み合わせて使うもののようで、SIMSのHDMテスター工場の製造及び動作チェックセクションでは「HST」の文字もよく目に付いた。
SLTには、テストパターン分の周辺機器が搭載された、複数のマザーボードがあらかじめ組み込まれている。ラインを流れてきたCPUをロボットアームが自動でつかみ、テスト専用のソケットにはめ込んで、テストを行う流れとなっている。
ここまで解説してきたSIMSの様子は、以下の動画にまとまっている。静止画では伝わりにくい雰囲気を、ぜひ確認してみてほしい。
前編で紹介した、Intel製CPUの製造工程の様子も興味深いものであったが、今回紹介した支援技術や支援機器の数々にも感心させられたという読者も多かったのではないだろうか。
観光地にある、農園見学や工場見学を楽しむと、その余韻から現地で生産/製造されたものが無性に欲しくなることがある。筆者も今回の見学を終えた後、Intel製CPUが無性に欲しくなってしまった。まんまとIntelの術中にはまっている(笑)。
それは冗談としても、筆者のみならず読者の何人かは、今後Intel製CPUを手に取った際、今回の記事を思い出すことがあるかもしれない。
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