狙いはIntel Macの一掃か Appleが「M3チップ」ファミリーで描く戦略本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2023年11月02日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 Appleが10月31日(日本時間)に開催したオンラインイベントで発表された製品は、いずれも第3世代のApple Silicon(SoC)「Apple M3ファミリー」を搭載している。

 M3ファミリーは、iPhone 15 Proシリーズに搭載された「Apple A17 Proチップ」との技術的な共通点が多い。同社いわく、電力効率の高さで世の中を驚かせた第1世代のApple Silicon、つまり「Apple M1ファミリー」と同じパフォーマンスを半分の消費電力で実現できるという。

 その上、今回は「M3チップ」だけでなく、同SoCをベースにCPUコア/GPUコアなどを増強した「M3 Proチップ」「M3 Maxチップ」も同時に登場している。2基のダイをファブリックで連結する「M3 Ultraチップ(仮)」は未発表だが、ラインアップ的には一気にそろった印象だ。

M3チップ Apple M3ファミリーは、Ultra(仮)を除く3種類が一気に登場した

 M3ファミリーを搭載する「MacBook Pro」は、M3 Pro/Maxチップ搭載構成で新色の「スペースブラック」が登場するものの、ボディーの基本設計は変わらない。「iMac」についても、従来モデルとボディーやカラーのラインアップは同様だ。

 “パッと見”ではそれほど大きく変わらないように思えるが、今回のラインアップをよく見てみると、とにかく「脱Intel Mac」を進めたいという意思を感じる。例えば14インチMacBook Proには、エントリークラスのM3チップを搭載するモデルを用意している。また、iMacにおいてM2チップを飛ばしてM3チップを搭載したのもポイントといえる。

 日本では価格設定に円安の影響が色濃くが出てしまっている。しかし、米ドルベースでラインアップを整理しつつ性能や特徴を考察すると、ラインアップの意図が分かりやすい。

M1/M2とは異なる「M3ファミリー」のバランス感

 「Apple M1チップ」の出荷以来、AppleはSoCの設計をかなりシンプルに上方展開してきた。

 まず、基本形の「無印チップ」を作る。それをベースに、クリエイター向けに機能や性能を最適化した「Proチップ」を用意し、ProチップのGPU/動画関連機能を強化し、ディスプレイインタフェースやメモリインタフェースを倍増させた「Maxチップ」を開発、そしてMaxチップをファブリックで2基連結した「Ultraチップ」で締める――このような展開だ。

 しかし、M3チップファミリーではこのパターンを崩し、ProチップとMaxチップで異なる性格付けが行われている

CPUコア:Eコアのバランス感に変化が

 CPUコアに注目すると、M2チップは「P(高性能)コア4基+E(高効率)コア4基」の計8コア構成で、M2 Pro/Maxチップは共に「Pコア8基+Eコア4基」となっている(※1)。つまりCPUコアだけを見るとProチップとMaxチップに違いはなかった。

(※1)編集部注:M2 Proチップについては「Pコア6基+Eコア4基」構成も用意されている

 それに対して、M3チップは「P(高性能)コア4基+E(高効率)コア4基」の計8コア構成で変わりないが、M3 Proチップは「Pコア5基+Eコア6基(計11コア)」または「Pコア6基+Eコア6基(計12コア)」、M3 Maxチップは「Pコア10基+Eコア4基(計14コア)」または「Pコア12基+Eコア4基(計16コア)」という構成となっている。

 ProよりもMaxの方がPコアを多く積んでいるのは当然だが、Eコアは6基から4基と、むしろ減っているのだ。少しどころか、バランス自体が変えられている。

M3 Proチップのブロックダイアグラム M3 Proチップのブロックダイアグラム。CPUコアに注目すると、最大でPコア6基+Eコア6基という構成となっている
M3 Maxチップのブロックダイヤグラム M3 Maxチップのブロックダイヤグラム。CPUコアは最大でPコア12基+Eコア4基と、Eコアだけに注目するとM3 Proチップよりも少ない

GPUコア:Proチップでは基数が“減少”

 一方、GPUコアに目を移すと、設計の刷新によるパフォーマンス向上に加えて、ハードウェアベースのレイトレーシング(RT)への対応に注目が集まりがちだが、こちらもモデル間のバランスが変わっている。M2チップファミリーとM3チップファミリーのGPUコアの基数は以下の通りだ(現状で存在する構成を記載)。

  • 無印(ベース)モデル
    • M2チップ:8コア/10コア
    • M3チップ:10コア
  • Proモデル
    • M2 Proチップ:16コア/19コア
    • M3 Proチップ:14コア/18コア
  • Maxモデル
    • M2 Maxチップ:38コア
    • M3 Maxチップ:30コア/40コア

 無印モデルは基数に変化が見られないが、ProモデルとMaxモデルは基数のバランスが変わっている。

 さらに、数字上で大きな違いが出ているのが、メモリの帯域幅(アクセススピード)だ。ピーク時の速度を比べると、以下の通りとなる。

  • 無印(ベース)モデル
    • M2チップ:毎秒100GB
    • M3チップ:毎秒100GB
  • Proモデル
    • M2 Proチップ:毎秒200GB
    • M3 Proチップ:毎秒150GB
  • Maxモデル
    • M2 Maxチップ:毎秒300GB
    • M3 Maxチップ(14コアCPU+30コアGPU):毎秒300GB
    • M3 Maxチップ(16コアCPU+40コアGPU):毎秒400GB

 M2チップファミリーではグレードが上がると帯域幅がリニアに増えていたのに対し、M3チップファミリーはそうなっていない。Proチップ同士では、新しい方がむしろ帯域幅が狭い(=最大速度が遅い)

 これに関しては、使っているメモリチップの集積度の変化からメモリ容量によってチャンネル数が減ってしまったのだと推察している。ただ、本当に必要なメモリ帯域は、求められる処理能力や処理内容に応じて変動する。恐らくは、CPUコアやGPUコアのバランスも込みで、AppleがApple SiliconのMacにおけるユーザーニーズ、あるいはアプリの挙動について学習したことで、SoCの“味付け”を変えることにしたのではないだろうか。

コア性能 M3チップファミリーのスペックをよく見てみると、据え置きあるいはスペックダウンしている部分もあるが、パフォーマンスは確実に向上している

 M3チップファミリーに関するこれ以上の探求は別の記事に譲ることにして、今回登場した新しいMacのラインアップについて考察してみたい。

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