従来の中/小型機からの移行で一番障害になりそうなのが、出張や二拠点制作などの用途を見込んでいる場合でしょう。縦横のサイズは以前とほぼ同じですが、分厚くなり、内蔵スタンドはなくなり、背面にはグリップの出っ張りがあります。なお、価格からくる心理的な持ち運びづらさは一旦無視します。
専用スタンドを使用している場合も、簡易スタンドを使用している場合も、ネジなどの取り外し作業をしない限りは運びやすい形になりません。純正以外のスタンドを使うなど、表面上の解決がないわけでもなさそうですが、このモデルはそもそも頻繁な運搬は想定されていないと理解して使うのが安全そうですね。
本機は、サイズ以外は基本的にCintiq Pro 27と同じ、と書きましたが、いくつかの注意すべき差もあります。
特に注意したいのが最後の項目です。表示モードを「ネイティブ」に設定して計測すると、Adobe RGBよりもDCI-P3やDisplay P3を目標に作られたディスプレイらしきことが伺えます。
Adobe RGBカバー率も公称で88%(CIE 1931)あるとはいえ、これくらいの価格域は妥協なく使いたいディスプレイでもあります。印刷物の制作に広色域を重視して挑みたい人は、Cintiq Pro 27や22などを優先して検討するとよいでしょう。
今までは触れないでいましたが、旧モデルから引き続き、Cintiq Proシリーズはワコムの純正カラーキャリブレーター「Wacom Color Manager」に対応しているのも見逃せないポイントです。
カラーマネジメント自体は他社の製品もできますが、この組み合わせの特徴は「ハードウエアキャリブレーション」に対応していることです。通常は「ディスプレイの表示特性をOSに知らせて、逆算で正しく表示してもらう」というものですが、ハードウエアキャリブレーションを使うと、ディスプレイ自体を目標の特性に近づけることができます。
つまり、本体設定のsRGBモードやAdobe RGBモードみたいな表示を自宅で作れるわけですね。Cintiq Proは最初から調整された各種モードが搭載されているので、それを使えばいいとも言えますが、そうとも言い切れません。液タブは高価な買い物で、とても長い間使うことも想定できます。長い間使えば色がずれてくることもあるわけです。
ディスプレイは年々性能向上していますし、経年での発色の変化も穏やかになっているはずです。だからといって大丈夫とも言い切れませんし、もし色が変わってきたとしても助かる道があるなら、それに越したことはありません。
筆者が知る限り、ハードウエアキャリブレーションに対応した液タブはCintiq Proシリーズだけです(Xencelabsも2023年移行に対応予定とされているものの、執筆時点では未対応)。液タブは長く使う機材です。いざというときに助かる可能性があることと、キャリブレーションの方式によって助かり方が違うのを勉強したり検討したりする余地があることも、覚えておくと損にはならないでしょう。
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