年末に“真打ち”が相次いで登場――CPUとGPUで振り返る2023年 2024年は“AI PC”元年か(3/3 ページ)

» 2023年12月30日 12時00分 公開
[笠原一輝ITmedia]
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Appleが「M3チップファミリー」を一気に発表

 10月、Appleが新型の「MacBook Pro」と「iMac」を発表した。両製品には、Mac向けApple Silicon(Armベース)としては第3世代となる「M3チップファミリー」が搭載されている。

 M3チップファミリーはPC向けとしては初めて、3nmプロセスで製造されるSoC(System-On-a-Chip)だ。CPUコア/GPUコア共に先代の「M2チップファミリー」比で強化されているが、特にGPUコアには新しい「Dynamic Caching」というメモリ帯域の利用を最適化する仕組みが取り入れられた。

 これにより、M2チップファミリーと比べるとCPUコアは最大15%、GPUコアは最大30%の性能向上を果たしている。

 M3チップファミリーは、スタンダードな「M3チップ」の他、その強化版である「M3 Proチップ」、M3 Proチップをさらに強化した「M3 Maxチップ」と、より大きいフォームファクターも用意されている。このこと自体は従来のApple Siliconと同様なのだが、ProチップやMaxチップも“同時に”発表したことが今までとの違いだ。

M3チップファミリー Apple Siliconの第3世代「M3チップファミリー」は、一気にProチップやMaxチップまで披露された(画像提供:Apple)

見どころ盛りだくさんの「Intel Core Ultraプロセッサ」

 年の瀬も迫る12月14日(米国太平洋時間)に、Intelは完全な新アーキテクチャCPU「Core Ultraプロセッサ」(開発コード名:Meteor Lake)を発表した。

鈴木氏 国内メディアにCore Ultraプロセッサを紹介する、インテルの鈴木国正社長

 Core Ultraプロセッサには、大きく3つの特徴がある。

 1つめは、半導体業界では「チップレット」と呼ばれる、複数種類のダイ(チップレット)を1つのパッケージに混載する技術を採用したしたことと、三次元方向にダイを混載する独自技術「Foveros」をメインストリーム製品に初採用したことだ。

 Intelではチップレットを「タイル」と呼んでおり、Core Ultraプロセッサは「Compute(CPU)タイル」「Graphics(GPU)タイル」「SoCタイル」「I/Oタイル」「ベースタイル」の5つのタイルから構成される。CPUタイルとベースタイルはIntelの自社工場で製造される一方で、GPUタイル、SoCタイル、I/OタイルはいずれもTSMCに製造を委託している。

 タイル構造とすることで、将来の製品において、例えば「CPUタイルだけをより微細化する」とか、逆に「GPUタイルやSoCタイルだけを微細化する」といったカスタマイズがしやすくなり、より柔軟な構成の製品を発売できる。

 競合他社との競争において、大きなアドバンテージを持つことになる。

タイル Core Ultraプロセッサはチップレット技術(タイルアーキテクチャ)を適用したことが大きな特徴だ(画像提供:Intel)

 2つめは、ハイブリッドCPUの進化だ。

 第12世代/第13世代Coreプロセッサでは、「高性能コア(Pコア)」と「高効率コア(Eコア)」の2種類のCPUコアを実装し、低遅延(≒高いスループット)を求められる処理はPコア、並列性を重視する処理はEコアに回すことで、マルチタスク時に全体的な性能を引き上げる「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼ばれる仕組みが導入された。

 Core UltraプロセッサのCPUコアも同様のアーキテクチャを取るが、EコアのバリエーションとしてSoCダイにさらに低電力で動作する「低電力Eコア(LP Eコア)」を内蔵している。アイドル時や動画再生時など、CPU負荷が低いときはLP Eコアのみを動作させることで、SoCとしての消費電力を低減できるのだという。Intelではこの仕組みを「3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼んでいる。

LP Eコア LP Eコアはアイドル時や動画再生時などに使われる。従来のPコアやEコアを“休ませる”ことで、消費電力を一層抑えられる(画像提供:Intel)

 そして3つ目が、NPUを内蔵したことだ。

 IntelのNPU製品群は、同社が2017年に買収したMovidiusの技術がベースになっている。MovidiusのNPUは内部にメモリを搭載しており、AI推論処理を内部完結することで消費電力を抑えられることが特徴だ。Core UltraプロセッサのNPU「Intel AI Boost」も、MobidiusのNPUをベースとしている。

 IntelはAI推論処理を行う開発キット「OpenVINO Toolkit」を2018年から提供している。このキットを活用してAI処理を行うISV(独立系ソフトウェアベンダー)のアプリは既に多く存在している。OpenVINOに対応しているアプリなら、既にCore UltraプロセッサのNPUを活用可能で、今後も多数のアプリが対応する見通しだ。

2024年は「AI PC」元年 注目は「Snapdragon X Elite」

 2024年のノートPC市場は、AMDのRyzen 7040/8040シリーズ、IntelのCore UltraプロセッサのようなNPUを内蔵したCPU(APU)が一般的になると思われる。

 NPU内蔵PCでは、対応アプリのAI処理をローカルでムリなく行える。IntelではNPU内蔵CPUを備えるPCを「AI PC」と呼んでいるので、2024年は“AI PC元年”となるかもしれない。

 そんな中、特に注目したいのが10月にQualcommが発表したPC向けSoC「Snapdragon X Elite」だ。

Elite QualcommがPC向けに投入するSoC「Snapdragon X Elite」

 Snapdragon X Eliteの特徴は、大きく2つある。

 1つは、独自設計のCPUコア「Oryon(オライオン)」を採用していることだ。OryonはQualcommが2019年に買収したNuviaの出身者が主導する開発チームが設計したもので、Apple Siliconにも負けない性能を発揮するとされる。ちなみに、Nuviaは主にサーバ向けArm CPUを開発してきた企業だ。

 もう1つが、「Hexagon」というNPUをしていることだ。最近のQualcomm製SoCにもNPUは搭載されているが、Hexagonはピーク時の処理能力が45TOPS(Tera Operations Per Second)だと明らかにされている。Ryzen 7040シリーズのNPUが10TOPS、Ryzen 8040シリーズのNPUが16TOPS、Core UltraプロセッサのNPUが11TOPSであることを考えると、AI処理では間違いなく“ダントツ”な存在となりそうだ。

 Qualcommによると、Snapdragon X Eliteの搭載製品は2024年半ばまでに登場するという。2024年第2四半期あたりには、さまざまな「AI PC」が登場することになりそうだ。

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