機能を呼び出す際に使える専用キーの存在は、特にこれからPCを使い始める新しいユーザー層に大きな影響を与える。我々のようなPCに慣れ親しんでいる(≒成熟した)ユーザーよりも、新しいユーザーの方が新しい機能を“空気のように”扱える傾向にあるからだ。
先に触れたCopilotキーも同様で、これからWindows PCを初めて使うユーザーは違和感なく使いこなせるだろう。言い換えると、AI機能(Copilot)を当たり前のように受け入れる可能性が高い。
このような現象は、音楽業界でも見られる。CDプレーヤーを使ったことがない世代の人が、ストリーミング配信される音楽を自然に受け入れ、その世代のアーティストもストリーミングサービスやSNSの中で、創作活動を行う場所を自ら見つけ出すようになった。
同様に、AIの活用がごく自然な毎日の作法になれば、PCを使って行う文書作成や画像などのメディア創作にも自ずと変化が起きる。いわば「AIネイティブ世代」の基礎となる技術が自然に形成されていくだろう。
Copilotキーは、現時点において「Bingと組み合わせたCopilot検索」「Microsoft 365との連携」「自然言語を使ったPCの設定」へのアクセスを簡単にする“便利キー”でしかない。しかし。今後はこのキーをより便利にすべく、Microsoftやさまざまなジャンルのアプリベンダーもアイデアを絞るに違いない。
このCESにおいて、MicrosoftはWindowsでアプリがNPUを積極的に活用できるようAPIを整えていく考えも示した。Copilotを含めて、現在のAIはクラウド(オンライン)処理が中心となっているが、今後はオンデバイス(エッジ)処理を前提とした使い方の提案も増えていくだろう。
これまでのPCは、基本的には「めっちゃ速い」が美徳とされてきた。CPUにしろ、GPUにしろ、速さは正義である。このマインドセットが急速に失われることは今後もないだろう。しかし、その速さを実感できないアプリ領域は、確実に広がっている。
そうした中で、「AI PC」よりも先にNPUでの勝負を“静かに”仕掛けていたのがAppleだ。ご存知のようにAppleは「iPhone 8」「iPhone X」の世代で簡素なNPU「Neural Engine」を初めて搭載し、「iPhone 11」世代でその性能を一気に高めた。その性能向上は、主にカメラ画質の向上などに割り振っていた。
推論モデルを実行するためのNeural Engineは、「Core ML」というAPIを通してサードパーティーも利用できるようになっている。それだけなく、Apple自身がOSの中に組み込む形で利用し、使いやすさを向上させてきたことは皆さんもご存じの通りだ。
自然な音声認識や発話機能、あるいは静止画や動画から文字を的確に抽出する機能、写真から被写体を自動判別してくり抜く機能など、「AIです」とは言ってはいなくても、NPUを利用することでに快適性を高めている例は実に多い。
Appleが画像生成AIモデル「Stable Diffusion」をNeural Engine上に移植し、Core MLから呼び出すことでオンデバイス実行できるようにしたのは2022年12月のことだ。
4つの異なるニューラルネットワークで構成される、複雑なパイプラインを持つ推論アルゴリズムのパラメーターは、およそ12億7500万にもなる。これだけのサイズと複雑さのモデルが既に動作していたわけだが、2023年のiPhone 15 Proシリーズに搭載された「A17 Proチップ」では、演算精度の切り替えなどでスループット(実効演算回数)を大幅に引き上げている。
……と、話がすり替わったように思うだろうが、AIモデルの研究/開発から生まれたトレンドは、今後Windows PCに搭載されるNPUでも動くようになっていくと考えられる。
要するに、これからのPCは「どんだけ速いの?」ではなく、「めっちゃ便利じゃん?」「めっちゃ賢くない?」というように、求められる“めっちゃ”の方向性や価値観に変化が生じることになるだろう。
Windows 11は、AIのオンデバイス処理とクラウド処理をシームレスに切り替えて活用できるよう設計されている。今後の数年を経て、PCにおけるオンデバイスでのAI機能が花盛りになることは間違いないだろう。
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