AIシフトが一層進む2024年 その中で静かに進むデータの“空間化”本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/2 ページ)

» 2024年01月05日 19時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 2024年は、「令和6年能登半島地震」と東京国際空港(羽田空港)における航空機事故と、現実とは思えない、まるで空想の世界のようなニュースから始まった。もちろん“現実”であるのだが、新年の始まりが痛ましい日だっただけに、残りの日々は穏やかであると信じたい。

 さて、この連載の中心はテクノロジー業界における話題である。2023年を振り返ると、x86アーキテクチャのCPUにも、スマートフォン向けSoC(System on a Chip)のトレンドが押し寄せてきたことが大きなトピックだったと思う。

 もちろん、半導体設計から実際の製品化までには一定の時間がかかる。2023年のトレンドも、実はその4〜5年前からの動き始めていた“流れ”が顕在化したに過ぎない。2024年はその流れが、より明確に見える形で現れるだろうが、実際に業界全体を動かすムーブメントは、もっと静かに進んでいくだろう。

 2024年から2025年にかけては、次の大きな地殻変動に向けての準備のようなものかもしれない。

2024年はどのような年になるのか……? 2024年はどのような年になるのか……?

Intelが唱える「AI PC」の持つ意味とは?

 2023年末、Intelが「AI PC」なるコンセプトを発表したが、「何を今さら?」と思っている人も少なくないだろう。推論アルゴリズムを効率よく実行する「NPU(推論エンジン)」は、Appleが自社開発のSoCに統合した「Neural Engine」が広く知られているが、QualcommのSnapdragonシリーズはもちろん、AMDのモバイル向けRyzen 7040/7080シリーズの「Ryzen AI」など、思った以上に搭載が進んでいるからだ。

 Intelも、2023年12月に発表したCore Ultraプロセッサに「Intel AI Boost」というNPUを搭載した。しかし、QualcommがPC向けに開発している「Snapdragon X Elite」に搭載されるNPUと比べて、大幅に高性能かというとそうでもないようだ。

 AI PCは、IntelがCore Ultraプロセッサを搭載するPCの“コンセプト”として訴求されている。ただし、それはどちらかといえば、PCがもたらす新しい価値や将来ビジョンを提案するものだと考えた方がいい。

NPU IntelのCore Ultraプロセッサには「Intel AI Boost」というNPUが搭載されている

 もっとも、この方向性での進化については、Neural Engineを擁するAppleは既に実践している。iPhone/iPad向けから始まり、Macはもちろんのこと、Apple WatchやApple TVなど、さまざまな種類のデバイスで応用が進んでいる。自社開発のOSに機能として組み込むことはもちろん、サードパーティー製アプリについてもAPIを通して、いくつかのレイヤーを通してNeural Engineを利用可能だ。

 この流れはAndroid OSベースのデバイスにも広がり、これからWindows PCでも展開される準備が整った――そういう局面に来たからこそ、PCデバイスのCPU(SoC)で圧倒的なシェアを占めるIntelは、プラットフォームとしてのAI PCを強くアピールし始めたともいえる。

広いエコシステム Intelの推論ベースのAI向けAPI「OpenVINO」は、既に広く使われている。OpenVINOベースでAI機能を組み込んでいるアプリなら、Intel AI Boostのパフォーマンスを生かせるようになっている

 同時に、今後はPCの評価において、CPUやGPUの“直線的な”処理性能を評価する意味が薄れる可能性もあるということだ。むしろ、CPU/GPU/NPUが実際の製品にどのように実装され、各種機能がどのような品質で動いてくれるのかという評価軸、あるいは商品のチューニングの仕方が変わっていくだろう。

 NPUの性能は一般的に演算スループット(実効演算回数)で表現されるが、2023年の振り返りでも触れた通り、この数値はユーザー体験(UX)と比例するわけではない。端的にいえば、NPUのスループットが2倍になれば、体験価値も2倍となるとは限らないのだ。

 ただし、NPUの性能が上がると、より的確な推論結果を導きやすくなる(=結果の質が高くなる)ので、それを製品価値の向上につなげることはできる。分かりやすい所では、「使っているPC上で動作する画像やオーディオの生成AIがあっという間に結果を出す」という事例も出てくるだろう。

 ただし、本質的にUX向上につながるかどうかは日常におけるAI機能の“使いこなし”による違いが出てくる。写真の中から文字をより的確に抽出したり、特定の人物や物を写真から選び出したり、あるいは毎日のPC操作で利用者が気付かない“癖”を見極めて提案を行ったり――そんな、ユーザー自身が使いでのある機能をAIで実装すれば、ありがたみを感じやすくなる。「被写体をタップしてホールドするだけで自動的に切り抜いてくれる機能」なんかも、もっと高品位に切り抜けるようになるかもしれない。

 技術的には新しい方向ではないが、プラットフォームに“組み込まれた”ことで開発の方向が集約されていく意味は大きい。

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