“AI元年”となった2023年 PCの世界にも地殻変動をもたらす予感本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2023年12月31日 17時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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PCの新しい進化軸「AI PC」

 Intelが12月に発表したCore Ultraプロセッサにも、AIトレンドが多く盛り込まれた。

 「Meteor Lake」というコード名で開発が進められたCore Ultraプロセッサには、新しいタイプのプロセッサとして、推論処理を専門に担う「NPU(Neural Processing Unit)」が搭載されている。ただし、NPUの搭載自体はライバルのAMDが「Ryzen 7040シリーズ」で先行しているし、PCを意識したArmベースのSoC(System On a Chip)をQualcommはさらに前から注力している(2024年に登場する「Snapdragon X Elite」のNPUは、IntelやAMDのそれをしのぐ性能を備える)。

 しかしPC向けCPU(SoC)においてトップシェアを誇るIntelがNPUを全面に押し出した意味は大きい。複数チップを接合して1つのSoCを構成する「タイルアーキテクチャ(チップレット技術)」を導入したことで、IntelのCPUは仕様に柔軟性を持たせやすくなった。

Core Ultra 12月14日(米国太平洋時間)に発表された「Core Ultraプロセッサ」は、全モデルにNPUが標準実装されている

 さらにIntelは、今後登場する新しい製造プロセスで作られる次世代CPUも視野に入れて「AI PC」という新しい方向性を示している。Core Ultraプロセッサの発表でも、このAI PCというキーワードでモバイルPCの新しい価値やビジョンを提案している。

 今後のPCは、ライバルのCPU/SoCを搭載する製品も含めてAI機能を(クラウドではなく)内部で処理する機能が搭載されることが当たり前となり、それがWindows搭載のエンドユーザー向けPCのトレンドも変えていくことになるだろう。

Core Ultra Core Ultraプロセッサは、NPUだけでなくCPUやGPUでも高速なAI処理を行えることをうたっている。演算(処理)内容に応じてCPU/GPU/NPUを使い分ければ、さまざまなAI処理を高速に行える

 もっとも「Windows搭載」という枠を外すと、デバイス上で処理するAI処理(「エッジAI」とも呼ばれる)については、スマートフォン向けSoCでは“当たり前”の風景となっている。中でもAppleはSoCへのNPU(Neural Engine)の統合を数年前から積極的に展開しており、それはMac向けのApple Siliconにも横展開され、機能やアプリを変えてきた。

 iPhone/iPad/MacのSoCに踏査されるNeural Engineは、「Core ML」というAPIを通してアクセスできるので、多くのアプリがその能力を活用している。それだけでなく、Appleは各種OSでもNeural Engineを活用した機能(動画/静止画内のテキスト認識や翻訳、画像/音声の自動処理、機械学習による各種機能の自動最適化など多岐にわたる)が組み込まれており、ユーザーは知らず知らずのうちに使っている場合も多い(ことさらにAIであるとは訴求していないが)。

Sonomaの場合 Appleは自社開発のOSにNeural Engineを生かす機能を随時導入している(画像はmacOS Sonomaで追加されたフレームトラッキング機能)

 NPUの絶対的な性能は、演算のスループット(実効速度)で決まる。しかし、ユーザー体験(UX)はスループットに比例とは限らない。「NPUが2倍速ければ、物事も2倍のスピードで解決される」というわけではない。より的確な推論結果を得やすい(≒結果の質が高くなる)という形で、よりPCを“パーソナル”な存在に変えていくだろう。

 もちろん、分かりやすいところでは「使っているPC上で動作する画像生成やオーディオ生成のAIが、あっという間に結果を出す」といった事例も出てくるだろうが、それよりも日常でのコンピュータの使いこなしがAIによって変化する方が、トレンドとしては大きな影響を及ぼすだろう。

クラウドからエッジへ――AI技術は指先に近づいてきた

 前半でも書いたように、技術は一夜にして生まれるわけではない。

 2023年は、それまで研究開発が続いていた生成AIを中心とした新技術が一気に顕在化し、僕らの目の前に現れ始めた年だった。一部はオンプレミスのサーバやローカルのパーソナルコンピュータでも実行可能だが、大多数はクラウドを通じて提供されている。まだAIトレンドの可視化による影響が端末レベルにまで届いていないからだ。

 しかし、クラウドから飛び出し、オンプレミスのサーバへ、そこからさらにローカルのPCやスマホ、タブレットなど“エッジ”へと向かう流れも生まれはじめた。

 (実際に製品化されて顧客に届くまでの)時間的な遅延や新しいアプリケーションの誕生などのプロセスを考えれば、これから数年をかけてPCの常識は大きく変化していくだろう。

 スマートフォンとは異なる、PCならではの新しいアプリケーションが生まれる土台はそろいはじめている。

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