Apple Vision Proのセットアップは、視線入力の最適化から始まる。先述の通り、筆者はOptical Insertsを一緒に注文していたため、付属するペアリングコードをカメラにかざしての最適化も行った。このペアリングを行うことで視野が最適化され、視線入力も正確に行うことができる。
視線回りのセットアップが終わったら、他のApple製品と同じように「Apple ID」を入力する。その後のプロセスも、他製品とおおむね同様だ。
まず、Apple Vision Proを“褒める”ことから始めよう。
上記のように、本機は視力矯正が必要な人にも配慮された設計となっている。Optical Insertsを外してから本機を装着すると、自動的にインサートなしの状態での最適化が行われ、「インサートあり」の時とは別に記憶してくれる。
なので、コンタクトレンズを使っている人なら、目の具合に合わせて「Optical Insertsなし(コンタクトレンズ着用)」「Optical Insertsあり(コンタクトレンズ非着用)」と使い分けることもできる。スペックの異なる2種類のOptical Insertsを用意して、それぞれに合わせた視線入力の調整を記憶して選ぶことも可能だ。
実機での体験は、2023年6月から大きく逸脱するものではない。しかし、こうして製品を手にすると、(やや言い過ぎかもしれないが)価格に見合うだけのコストをかけていることは十分に伝わってくる。
湾曲させた前面ガラスやアルミフレーム、ニットと2つのループワイヤーで支えるストラップの構造、そのストラップをホールドする金具の構造など、あらゆるところで惜しみなくコストがかけられていると感じる。
外光を遮って没入感を高めるLight Sealは、軽量のフレームにニットを張ったもので、装着時に蒸れにくいよう工夫されている。肌に直接触れるパッドも分離可能で、個別に洗うことができる。
好みに応じて、頭の上にも通せる「Dual Loop Band(デュアルループバンド)」も付属する。
手軽に着け外しでき、細かくフィットするという意味で、ニットを用いた標準バンド(Solo Knit Band:ソロニットバンド)は優れている。その時の状況に応じて、ダイヤルで締め具合を調整できるのがいい。
一方で、動き回りながら使う場合はDual Loop Bandを使った方がいい。調整は手軽とは行かないものの、ズレにくい。
ちなみに、実は2023年に体験した際は、ニットを用いたバンドに頭頂部で支える補助バンドが使われていた。製品版では、2種類のバンドを付属することで対応することにしたようだ。
まだ湿度の高い環境で使っていないが、レンズの曇りは今のところ経験していない。内面での反射はさずがにゼロではなく、真っ黒の中に高輝度の領域があると、ハレーションを確認できる。もっとも、その程度は安価な製品よりは少ない。
本機の有効視野角(FOV)は公開されていないが、使っているLight SealのサイズとLight Seal Cushion(Light Seal用のクッションパッド)の厚みに依存する。筆者の場合、オプティカルインサートを使っている上、「W+」という厚めのクッションパッドが適合するので、90度よりも少し広い程度だろうか。周辺がボカされているため、本来見えるエリアはもう少し広いのかもしれない。
左右の目で見る視野が重なる領域が比較的自然なため、あまり視野の狭さは感じない。実用性も低いとは思わないが、FOVの広さを売りにする製品と比べれば、ここはやや弱いポイントであることは確かだろう。
とはいえ、マイクロOLED(有機EL)ディスプレイによるグラフィックス表示の細かさは格別だ。メガネを使わずに済むことも含め、その品質はとても良い。この手のデバイスが嫌い(苦手)な人でも、一度は試してほしい。
しかし、この体験レベルの高さと本体の質感は褒めたいが、重さに関しては明らかに改善が必要だ。顔へのフィット感を追求した作りは素晴らしいが、それでもなお、どうしても“重い”と感じる。公式スペックによると、本体が600〜650g(装着するLight SealやLight Seal Cushionによって変動)、バッテリーが約353gとのことで、全部合わせると1kgほどになってしまう。
個人的には長時間での利用も気にならないが、人によっては間違いなく首が疲れる。今後、世代を重ねる中で、最も高い優先度で改良すべきは“軽さ”だと思う。
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