試して分かった「Apple Vision Pro」の体験価値、可能性、そして課題本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)

» 2024年02月07日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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次世代コンピューティングへの“新たなスタート地点”

 Apple Vision Proについて、Appleはあくまでも米国内ユーザー向けの製品であることを徹底している。Apple Vision ProのWebサイトでも繰り返し書かれているので、認識している読者も多いだろう。

 「一度買っちゃえば何とかなるでしょ?」と思っている人がいるかもしれないが、実はそうでもない。例えば「日本在住」で登録されているApple IDを使うと、Appleが提供する各種サービスにアクセスできない。これはかなり厳密で、各種有料サービスの登録などに使うクレジットカード(あるいはデビットカード)についても、米国で発行されたものを用意する必要があるなど(※1)、使い続けること自体にいくつものハードルがある

(※1)編集注:国際決済ブランドが付帯するクレジットカードやデビットカードは、カード番号の先頭6桁で決済ブランドとカードの発行会社を特定できる。当然、カードの発行会社を特定できるということは、発行国も判別できるということである

 日本語への対応だが、日本語の表示“は”できる。しかし、音声認識や文字入力には対応しない。Apple Vision ProはBluetoothキーボードに対応するものの、日本語入力はできない。日本語入力をセットアップしたMacを用意して連携登録し、そのデスクトップをリモート操作するという手も取れるのだが、若干“苦肉の策”ともいえる。

購入サイト Apple Vision Proの購入サイトのよくある質問コーナーは「とにかく米国外では使い物にならないぞ!」という、ある意味の“圧”を感じる部分もある

 Apple Vision Proは「AirPlay」に対応している。そのため、MacやiPhone/iPadの「コントロールセンター」から画面共有を行うと、Apple Vision Proの空間に画面が投影される。Macの場合は自動連携も可能で、一旦、ペアリングをしておくとMacをスリープから復帰させた際に再接続される。この際、Mac本体の画面は“消える”ため、大画面を楽しめるだけでなく、守秘性の高い情報を操作する際には役立ちそうだ。

 また、本機ではiOS/iPadOS向けのアプリがそのまま動く(一部を除く)。アプリの不足に悩むこともなさそうだが、先述の理由から日本限定配信のアプリは使えない

そのまま Apple Vision Pro上でiPadOS向けの「Adobe Lightroom」アプリを動かした所

 空間全体をディスプレイにするというアイディアは、こうして文章で伝えるとき、その本質を伝えることが極めて難しいという点でもどかしさを感じる。しかし、次世代のコンピューティングへの“入り口”に立っているという感覚は、誰もが覚えることだろう。

 現時点で試している本機専用のアプリは、どれもグラフィックスの質が極めて高いという点で画期的だが、一方で想像を超えるような使い方の提案はない。また、表示の自由度は部屋の広さに依存するため、広い部屋(空間)を確保しづらい日本の住居やオフィスにおける使い勝手は、改めて評価する必要があるだろう。

アプリ 空港の離発着便のデータを取得し、航空機を俯瞰(ふかん)表示できるアプリ。グラフィックスの質は高いものの、使い方という意味で「おお!」という驚きを与えるほどではない
デジタルペルソナ インカメラを使うアプリ(またはWebサイト)を使うと、Apple Vision Proに登録したデジタルペルソナをアバターとして表示できる
Zoom iPadOS向けのZoomアプリでデジタルペルソナを送出している図

 製品が重すぎることを除けば、マウスやトラックパッドを使わず視線とジェスチャーだけで操作が可能で、多くの情報を一覧できる「空間コンピュータ」というコンセプトに未来がある――この意見には同意する。

 しかし、このApple Vision Proはまだ“スタート地点”に過ぎない。現行のiPhone 15 ProやMacBook Airなどと同等の完成度や価値を望むと、現実とのギャップを感じるだろう。価格に見合うだけの“結果”は得られない

 しかし、新たな可能性や将来に向けてテクノロジーがどのように社会変革をもたらすかを思索するスタート地点と考えるのであれば、現時点で最も優れたスタート地点といえる。次世代への扉の向こう側を見たい、あるいは次世代アプリケーションのアイデアを練りたい――そう考えるのあれば、渡米してでも手に入れる価値はある。

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