「Apple Vision Pro」発売から1カ月 新しい驚きの「プラス」と「マイナス」を考える本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)

» 2024年03月07日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

Apple Vision Proは「モチベーション」をかき立てる?

 アプリに視点を移すと、現時点で入手できるApple Vision Pro向けのアプリの多くには“既視感”を覚える。ほとんどが本体の発売前から開発していたものなので、ある意味では当然だ。

 しかし思い返すと、どんな形であれ、新しいコンピュータが製品として投入された当初は、新しいアプリが全く存在しないことは珍しいことでもない。今でこそたくさんアプリのあるiPhoneも、2007年に発売された当初はアプリのインストールすらできなかった。サードパーティーのアプリが流通し始めたのは、その翌年に投入された「iPhone 3G」で「App Store」が導入されてからだ。

 「携帯電話にアプリを導入する」ということ自体は、当時から珍しいことではなかった。しかし、その機能や性能には制限があり、PCのように自由度が高いアプリが使えるiPhoneはとても斬新だった。

 そんなiPhoneのアプリも、当初はどこか既視感のあるものが多かった。斬新なものがあったとしても、実用性がなかったり、面白さだけを狙ったりした“アイディア勝負”の

ネタアプリだった。Apple Vision Proの現状と大差なかったと記憶している(初めからアプリを利用できるだけ、Apple Vision Proはマシともいえる)。

iPhone 3G 初代iPhone(日本未発売)は、当初アプリの追加に対応していなかった。アプリの追加に対応したのは、2世代目の「iPhone 3G」からである(初代もOSのアップデートでアプリの追加に対応した)

 アプリの開発者からは「日本未発売のデバイス(Apple Vision Pro)のために、アプリを書く人なんているの?」「まだ普及してもいないデバイスのアプリに、開発費を掛けたところで利益を出せるの?」という意見もある。しかし、iPhoneにおけるApp Storeも、当初は大きな売り上げを期待できるようなものではなかった。

 では、なぜこれほどiPhoneのアプリが充実したのか。それはiPhoneがもたらすであろう未来をポジティブに受け取り、自ら新しい価値を作りたいと思った開発者がたくさんいたからだ。

 最終的に収益につながればもちろんベストなのだが、そもそもイマジネーションをかき立て、新しいクリエイティブを生み出す――そんなプラットフォームだからこそ、開発者は魅力的に感じたのだろう。

 「現時点でのアプリに既視感がある」「デモンストレーションとしては面白いが、役に立たない」といった感想を持たれたとしても、実はあまり大きな影響はない。最も重要な事は、Apple Vision Proが目指す世界観にワクワクして、新しいアイデアを実現するためのプラットフォームとして、これまでのコンピュータではできないことができると開発者に信じてもらうことだ。

App Store App Storeは、iPhone 3Gの発売と同時にサービスが始まった。WindowsやMac OS(当時)でもおなじみのアプリが多く並んでいたが、それよりも「これまでのプラットフォームではできなかったこと」が実現できるのだというアピールが大切なのだ

 それこそが開発者のモチベーションであり、高いモチベーションこそがイノベーションをもたらすのだと、毎日Apple Vision Proを使って感じていることでもある。

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