「Apple Vision Pro」発売から1カ月 新しい驚きの「プラス」と「マイナス」を考える本田雅一のクロスオーバーデジタル(4/4 ページ)

» 2024年03月07日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]
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visionOSの「未熟さ」と相反する「異常な執着」

 まだ日本語を含む多言語対応が進んでいないこともあり、現在の「visionOS」の完成度は評価しきれない。ただ、少なくとも「完成度が高い」と言える状況にはないだろう。

 同OSのベースはiOSやiPadOSにあるため、基本的な部分における信頼性や、システム面での整合性は確保されている。しかし、各種の設定機能やiOS/iPadOSでは“当たり前”の機能がまだ実装されていないか、未熟な部分もある。これから詰めて開発していく段階だろうと思われる。

 聞こえは悪いかもしれないが、現時点でのApple Vision Proはまだ「β版」であるといっても過言ではない。

vision visionOSはiOS/iPadOSをベースとしているため、信頼性や整合性は確保されている……のだが、機能の実装が追いついていない面があることは否めない

 一方で、OSとしての全体的な「未熟さ」と相反するように、「執着」したとしか思えないほどに、驚くほどに高い完成度を見せている部分もある。それを最も強く感じるのは、視覚と聴覚を一致させるための、極めて子細な部分にまでわたる配慮だ。

 例えばデジタルクラウンを回してイマーシブモードを「100%」にすると、設定した仮想の空間に高いレベルで没入できる。このことは、読者の皆さんも情報的には把握しているだろう。しかし、実際にApple Vision Proを身につけて100%のイマーシブモードを使ってみると、変化が視覚的な環境にとどまらないことを体感できる。

 例えば「FaceTimeビデオ」で誰かとビデオ通話をするとしよう。FaceTimeビデオの映像を空間の中で動かすと、映像の「方向」や「高さ」が変化するだけではなく、置く場所の遠近に応じて、相手の音声に音響処理が掛かる。近くに置けば“近く”にいるように、遠くに置けば“遠く”にいるように聞こえるのだ。

 これは「オーディオレイトレーシング」と呼ばれる処理の結果だ。 Apple Vision Proが捉えている空間情報のをもとに、相手がその中でしゃべっているように反響や残響といったものを演算によってシミュレーションしているのだ。もっとも、現時点では残響が大きい部屋を仮想しているようで、反響(エコー)は大きめに出る。それでも、部屋の形状に応じて音はしっかりと変化する。

 イマーシブモードの音響は、没入度を高めるとさらに“すごみ”を感じる。例えば雪のヨセミテの中に没入してみると、シーンと静まりかえる。まるで本当に雪の中にいるように、残響が消えて、反射音もほとんどなく、静かな中で相手がひたすらに喋ってるように聞こえる。

 そこからマウントフットが見える湖畔の森の中に移ってみると、今度は本当に森の中にいるように、また目の前に、湖畔が広がっているように、なんとなく感じる。ちなみに、このマウントフットの風景では、小雨が降っているのだが、その小雨のしとしととした音の気配までが聞こえてくる。

反響 FaceTimeビデオの音声は、映像を置いた場所の遠近をしっかりと反映して聞こえるようになっている。これは体験してみないと“スゴさ”を実感しづらいかもしれない

 「ビジュアル」と「オーディオ」の完全なる同期を目指す――このこだわりは、ごくシンプルにWebブラウザで動画を見ている時にも感じることがある。

 Webブラウザで動画を見ている時に頭を動かすと、ブラウザのウィンドウの中からステレオの音声が聞こえてくる。「何当たり前のことを言っているんだ?」と思う人もいるかと思うが、“ブラウザの中から”という所がポイントだ。確かに当たり前なのだが、うっかりすると気が付かないかもしれない。

 オーディオレイトレーシングをここまで徹底している様子は、もはや「執着」としか言いようがない。実はこの製品を開発する上で、OSの操作性や機能を整えるよりも、音声が重要なことだったと想像できるのではないだろうか。

まずは「開発者が心地良いと思える基盤」を目指したか

 360度のVR映像をカメラを使って撮影することができたとしても、そこにオーディオを完全に同期させ、立体的に表現することはなかなか難しい。VRコンテンツを制作したことがある人ならば、そのことが痛いほどに分かると思う。

 アプリ開発をしている人はもちろん、コンテンツ制作をしている人が「空間の中での音の聞こえ方」に1つ1つ配慮するとなると、制作工程が複雑になり、極めて困難な状況になることは想像に難くない。

 その点、Apple Vision Pro(visionOS)では、空間の中に配置するアプリでモノラル/ステレオ音声や空間オーディオを割り付けておくと、デバイス内で見えている空間の風景と同期して、全てのオーディオが“正しく”配置して聞こえるように自動調整してくれる。

 開発者が「空間コンピューティング」で本当に新しい価値を創造しよう、作り出そうとしている中で、“完璧な”ユーザー体験を実現するためのツールセットをきちんとOSに統合しようという意思が、こうしたこだわりからも感じ取ることができる。

恐らく音優先 もしかすると、visionOSは操作性や機能面よりも、視覚と音声の没入感を高めるための開発を優先したのかもしれない

 現在のvisionOSは、バージョンでいうと「1.0.3」となる。しかし、真の意味での“イニシャル”リリースは、恐らく2024年末近くになるのではないだろうか。その頃には、日本でもこの製品が発売されていると思われる。

 iOSやiPadOSと共通するような機能は、時間をかければ後からでもいくらでも追加できる。ユーザーインタフェース(UI)の細かな部分も、これから調整されていくだろう。

 あまりにも自然すぎて、処理されていることに気づかないほどのナチュラルなオーディオとビジュアルの感覚を、OSが透過的にサポートしてくれる――こうした部分は簡単に作り上げられるものではない。

 開発者は、新しい価値を創造していく中って、本当に心地よく思い通りのものを作り上げていく基盤にしようとしているのだと気づくことができるだろう。これこそが、この製品をわざわざ米国にまで買いに行った価値ともいえる。

 普及時期がたとえ4〜5年後だったとして、それだけの期間があれば、多くのライバルが現れることになるだろう。しかし、このApple Vision Proの完成度の高さは、ライバルにとって大きな参入障壁となるはずだ。

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