クリエイティブツールでのテストでは、得意不得意の傾向がはっきり分かれた。Premiere Proは、シーケンスの書き出し(H.264)エンコードでは比較対象よりも圧倒的に高速だったが、After Effectsで作成したモーショングラフィックスをレンダリングして置き換える処理では逆に大きく遅れた。
Lightroom Classicでは、RAWデータに現像設定を適用してJPEGで出力する処理は高速だったが、AIを使ってRAWデータのノイズを取り除く処理では比較対象より大幅に時間がかかった。Vrewでは、AIの音声作成は比較対象とほぼ同じ、エクスポート(H.264エンコード)では比較対象よりも速かった。
処理によっては極端な結果になったが、Apple SiliconとIntel CPUのアーキテクチャの違いに加えて、AI推論エンジンやハードウェアエンコーダーがソフトウェア側でサポートされているかどうかによるところが大きい。不得意な処理もあれど、総合的にクリエイティブでの実力は十分備えているといえる。
発熱についても、ボディーの左側がじんわり熱を持ってくるという程度だった。最先端のTSMC 3nmプロセスのアドバンテージが遺憾なく発揮されている印象だ。
冒頭でも述べたが、筆者がAppleのノートPCをテストするのは約3年ぶりだ。最近で試したのはM1チップを搭載したMacBook Proだったが、当時はまだソフトの多くがネイティブ対応していなかったため良いイメージがなかった。それから世代を重ねて3世代目となったM3チップの仕上がりはかなり衝撃的だ。
ACアダプターが35Wという時点で一瞬目を疑ってしまったが、クリエイティブパフォーマンスとファンレスの両立によってもたらされる奇妙な感覚もまた未体験のものだった。ボディーと画面の美しさやTouch IDなどの使い勝手も含めて「Windowsの世界よりも2歩先を進んでいる」というのが正直な感想だ。
もちろん、ゲームはそもそもプレイできるタイトルが少ないし、ビジネスでも機能的に代替ができない場面は多くあるだろうが、純粋なコンピュータとしての魅力を考えると、大げさな表現ではないだろう。
直販価格は、8コアGPUモデルで16万4800円(税込み、以下同)、評価機と同じ10コアGPUモデルが19万4800円からとなっている。ただ、これはあくまでメモリが8GB、SSDも512GBの最小価格で、メモリとストレージを増やすと価格が跳ね上がる。メモリを8GB増やすごとに3万円ずつ上乗せが必要で、メモリを24GB、SSDを2TBという構成にすると34万4800円になってしまう。
ハイスペック志向のユーザーにとっては厳しい価格設定ではあるが、唯一無二の体験ができるモバイルノートPCであることは間違いない。もっと注目を集めてよい製品だろう。
※記事初出時、バッテリー容量について誤りがありました。おわびして訂正します(2024年4月8日午前11時01分)。
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