―― その一方で、生成AIは多くの仕事に取って代わるという議論もあります。
山口 それもクルマの場合と、考え方は同じです。クルマはモノを運んだり移動したりという点では、人間の能力をはるかに超えています。しかし、あくまでもツールです。生成AIは、情報の整理や多くの情報を元に思考する能力はありますが、使うのは人であり、人の仕事や判断などをサポートするものです。
大切なのは、そこに倫理が必要だという点です。クルマも交通ルールが守られなければ、事故が多発することになります。生成AIも倫理を守らなければ、大変なことが起きます。IBMが、責任あるAIに対して力を注いでいる理由もそこにあります。既に生成AIは、さまざまな形で使われ始めています。また、多くの大規模言語モデルが作られ始めています。この流れを止めることはできません。
―― 価値共創領域で掲げている「CO2やプラスチック削減などのサステナビリティー・ソリューションの共創」に関する取り組みにはどのようなものがありますか。
山口 カーボンニュートラルや循環型社会への関心が高まる中で、サステナビリティー・ソリューションの共創が増えており、ここでも成果が生まれています。既に三井化学や旭化成、三菱重工と、それぞれに取り組みを進めていますし、2024年1月には、北九州市およびIHIとともに、熱マネジメントによって北九州地域のGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する連携協定を締結しました。
2024年にも、いろいろな事例を紹介できると思います。サステナビリティー・ソリューションは、1社でやっても意味がありません。例えば循環型社会の構築においては、製品を生み出して、消費者に届ける「動脈産業」と、不要となった製品を回収して再活用するために処理を行う「静脈産業」との連携が不可欠です。
また、脱炭素においてはサプライチェーン全体での連携が不可避です。特にサステナビリティは、多くの人の価値観を変えなくてはならない領域でもあります。リサイクルされたものは使いたくないという人はまだまだ多いですし、リサイクル素材はコストがかかるという課題も解決にしなくてはなりません。仕組みを大きく変えていくためには、長期的な活動が必要になりますから、その姿勢で取り組んでいきます。
―― 価値共創領域の最後に挙げている「IT/AI人材の育成と活躍の場」についてはどんなことに取り組んでいますか。
山口 全ての価値共創領域において人材が重要です。しかし、ITやAIの人材不足は深刻な課題となっています。デジタル変革を進め、よりよいサービスを提供していくためには、デジタル技術を使いこなすIT人材を育成しなくてはなりません。
当社では、グローバルで展開している官民連携の新たな教育モデルである「P-TECH」や、大学などと一緒になって量子ネイティブな人材育成にも取り組んでいきます。さらに、日本IBM社員に対する教育については、最初はITスキルに関するものから始まりましたが、今では量子やAI、クラウドに加え、リーダーシップや経済安全保障など、幅広いテーマで教育を実施しています。
国際的センスを持った人材をさらに増やしていきたいと思っており、日本IBMの社員を対象にした海外研修も増やそうと思っています。生成AIの浸透などにより、言語の壁が低くなってきます。これは、日本から外に出ていきやすくなるだけでなく、海外から日本に入ってきやすくなることにもつながります。世界の中での経験が必要になり、国際的センスを持ってイノベーションを起こすことが、ますます重要になると思っています。新たなスキルを備え、自分の軸をしっかりと作り上げる必要があり、教育を通じて、そのきっかけの場を作りたいですね。
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