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「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケIT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)

» 2024年04月23日 12時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 ポストコロナウイルス時代となったが、不安定な世界情勢や物価高、円安の継続と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。連載第12回は日本IBMだ。

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 日本IBMは「価値共創領域」に力を注いでいる。価値共創領域として掲げているのは、「社会インフラであるITシステム安定稼働」「ハイブリッドクラウドやAIなどのテクノロジーを活用したDXをお客さまと共に推進」「CO2やプラスチック削減などのサステナビリティー・ソリューション」「半導体、量子、AIなどの先端テクノロジーの研究開発と社会実装」「IT/AI人材の育成と活躍の場」の5つだ。

 日本IBMは、なぜこの5つの領域に力を注ぐのか。前編では、その中から半導体/量子/AIといった先端テクノロジーの取り組み、そしてメインフレームへの継続的な取り組みなどについて、山口明夫社長に聞いた。山口社長は、「IBMはテクノロジーカンパニーである」と断言する。

日本アイ・ビー・エム IBM 山口明夫社長 テクノロジーカンパニー 価値共創領域 日本IBMの山口明夫社長。同社の箱崎事業所(東京都中央区)でお話を伺った

なぜ「5つの価値共創領域」を定めたのか

―― 日本IBMでは、5つの価値共創領域に力を注いでいます。この狙いを教えてください。

山口 コロナ禍においては、全世界が一斉に行動様式を変えるほどの大きな変化を私たちは経験しました。また、地政学的リスクなどを背景にしたサプライチェーンの混乱、資源およびエネルギー調達に対する不安など、さまざまな業界のお客さまが、多くの課題に直面しています。これらの課題を解決するために当社では「5つの重点領域」を定め、これを価値共創領域に位置づけました。

日本アイ・ビー・エム IBM 山口明夫社長 テクノロジーカンパニー 価値共創領域 日本IBMが定める「5つの価値共創領域」

 これは、2022年に打ち出したのですが、社員やパートナー、お客さまにも、この考え方が理解され、腹落ちしてきた段階にあるといえるのではないでしょうか。日本IBMがどの方向に行こうとしているのかという位置づけが明確になり、社員がこの方向に向かって行動しています。

―― まず「半導体/量子/AIなどの先端テクノロジーの研究開発と社会実装」について聞かせてください。この領域は、日本においても積極的な動きが見られています。

山口 ご指摘のように、当社では半導体/量子/AIなどの領域に力を注いでおり、積極的な投資を行っています。2022年には、今後10年間で半導体や量子コンピュータ、AIなどの研究開発や製造に200億ドル(約3兆円)を投資する計画を発表しています。そして、これらの領域においては、日本が重要な役割を果たすことになります。

 例えば、新たな半導体を事業化するには日本が持つ技術が必要であり、製造装置や素材といったところでも日本の企業が貢献できる部分は大きく、IBMコーポレーションとしても半導体分野に留まらず、日本市場に積極的に投資を行うことを決めています。

―― 半導体については、2nmの半導体製造プロセスの開発に注目が集まっています。日本のRapidusとの協業も一気に加速していますね。

山口 ロードマップの描き方が、かなりのスピード感を持ったものになっており、今はそのスピードに沿って展開が進められています。IBMはRapidusに対して2nmの技術をライセンスするとともに、人材育成を支援します。また、IBMが持つ半導体製造管理ソリューションを提供することも考えています。そして、Rapidusは北海道千歳市に製造拠点を建設し、量産を開始することになります。

日本アイ・ビー・エム IBM 山口明夫社長 テクノロジーカンパニー 価値共創領域 IBMが開発している2nmの次世代半導体
日本アイ・ビー・エム IBM 山口明夫社長 テクノロジーカンパニー 価値共創領域 Rapidusが北海道千歳市に建設する「Innovative-Integration-for-Manufacturing」のイメージ

 経済安全保障の観点でのメリットや、新たな雇用を創出するという効果がありますが、この取り組みは、日本の半導体産業の復興に大きな影響をおよぼすことになると考えています。振り返ってみますと、日本の半導体産業は、1980年代後半には世界の半導体市場の50%を超えるシェアを持っていましたが、その後競争力を失い、現在では10%弱のシェアに留まっています。しかし今回の取り組みなどを通じて、これを「産業」と呼べる規模にまで成長させ、「半導体産業」が再び日本に創出されることを期待しています。

―― 日本の半導体産業には、30年以上に渡るブランクがあります。このギャップを埋め、キャッチアップすることができるのでしょうか。

山口 日本は、先行する他国をキャッチアップする必要はありません。それには理由があります。Rapidusとやっている2nmの半導体製造プロセスは、新たな世代の半導体です。これまでの世代においては、出遅れたため微細化競争の中に入っていっても勝てません。しかし、今は世代が変わるタイミングに入っています。IBMは次世代トランジスタ技術であるNanosheet(ナノシート)によって、2nmを実現することになります。

日本アイ・ビー・エム IBM 山口明夫社長 テクノロジーカンパニー 価値共創領域 IBMとRapidusの幹部(右から2人目が山口社長)

 つまり、これまでの世代の半導体をやってきたところも、全くやっていなかったところも、次世代となった時点で同じスタートラインに立つことができます。今だからこそチャンスなんです。

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