音楽家としての中川氏が、テクノロジーに一番救われたのはコロナ禍かもしれない。直前までニューヨークで録音をしていた中川氏だが、本格的にコロナ禍に入ってからは公演などが全てキャンセルになった。
時間が止まったようなコロナ禍で、当初中川氏は子供たちとボールで遊んだり、バドミントンをしたりと、まるで夏休みのような時間を過ごしていたという。そこまで「ポジティブ」に受け止められたのは「子供たちがいたおかげ」だと振り返る。
しかし、時間が経つと「やはり音楽活動をスタートさせたい」という思いが大きくなってきた。そんな時、役に立ったのがデジタルテクノロジーだった。
デジタル技術の活用について音楽仲間たち皆が模索し、情報を共有しあったという。家の録音環境を充実させた。家で録音した演奏をデータで送るということは以前から行っていたが、コロナ禍そうしたやりとりは確実に増えたと語る。
特に多かったのが、ライブハウスやコンサートホールなどからの演奏の配信だ。インスタライブで演奏を配信したり、みんなでバラバラに演奏の映像を撮って、それを1つに繋げてYouTubeで公開したりといったことも行った。自体が少し落ち着いてから行った、BLUE NOTEでのライブも生演奏と配信を同時に提供したという。
後に状況が落ち着いてから地方公演などにいくと「その時の配信を聞いていた」という声をよく耳にしたという中川氏だが、コロナ禍があったからこそ「ライブで繋がれることの大切さやありがたみを感じました」と主張する。
そんな中川氏だが「演奏家としての自分を見ると、テクノロジーは敵になる可能性もあります」とも語っている。
例えば、役者の演技に合わせての生演奏をつけるのが当たり前のミュージカル劇の世界では、昔は曲を演奏するのに必要な奏者全員がそろえられた。しかし、シンセサイザーのようなテクノロジーが普及してきたことによって、もっと少ない奏者でも済むようになった。今ではコンピューターに曲を演奏させ、リアルタイムでテンポを変えるといったこともできる。
「ゼロではないけれど、僕たち(奏者)の席数が減ってきているのは事実としてあります。トロンボーンも3人いたのが1人しかいなくなってしまうというのは今後あるかもしれない。でも、この流れを僕が止めるということにはならないし、自分はテクノロジー好きだから、それはそうだよなと思います」と、冷静にことを受け止めている。
「宮大工がなくならないのと同じように、究極の職人、究極の音楽家、究極のアーティストというものは、やはりなくならないと思います。中途半端なものは機械に置き換えられてしまうかもしれないけど、一部のものは生き残ります」という。
「どこまで許容するかは人それぞれです。アナログこそが最高と言うのは、それはそれで1つの考え方でしょう。でも、自分はデジタルの時代の中でも、楽しくやっていける方法というのは必ずあると思っています」と述べる中川氏。
そんな中で、中川氏がテクノロジーが奪えない人の役割について「もしかしたら、今日の(Apple 丸の内での)演奏で初めてトロンボーンの音を聞いたという人もいるかもしれません。それで音楽っていいなと思って、トロンボーンを始めたいと思う人がいるかもしれません。そういうことは、人間の生の演奏でしかできない部分だと思っています」と語る。
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