「Apple Music Classical」はクラシック音楽リスニング体験の再発明だ 著名音楽家たちが大きな期待を寄せる理由海外ではついにリリース(1/3 ページ)

» 2023年03月30日 06時00分 公開
[林信行ITmedia]

 「世界をより良い場所にしてくれてありがとう」

 世界的に有名なチェリスト、ヨーヨー・マ氏が、こう言って歓迎したのは、3月28日に米国でリリースしたAppleのクラシック音楽特化の新しい音楽配信サービス「Apple Music Classical」だ。Apple Musicの購読者は、無料で利用できる。

 残念ながら日本でのサービス開始は少し遅れるが、リリース前から大きな期待が集まっているようだ。同サービスには3度に渡ってグラミー賞を受賞したバイオリニスト、ヒラリー・ハーン氏やロックバンド「Radiohead」のメンバーでクラシック音楽にも精通したジョニー・グリーンウッド氏、ヨーヨー・マ氏を含む音楽家も大きな期待を寄せている。実はこの3人は、Appleに意見を述べるなどの形で同サービスの開発にも関わったという。

 ここでは、サービスの概要やサービスに寄せられた期待を紹介していこう。

Apple Music Classical サブスク クラシック アプリ サービス ついに「Apple Music Classical」の提供が始まった。日本/中国/ロシア/韓国/台湾/トルコでも、近日中にサービスがスタートする。これは2022年にAppleがクラシック専用のストリーミングサービス「Primephonic」を買収したのを受けたもので、2022年という当初の計画からずれ込んだ形になる。

クラシック好きが作ったクラシック好きのためのサービス

 Apple Music Classicalは、先進技術と人間の専門知識を組み合わせたクラシカル音楽を楽しむための革新的なプラットフォームを目指し、Apple社内で編成されたバイオリニスト/クラリネット奏者/フルート奏者/作曲家/指揮者/オペラ歌手3人を含む大のクラシック音楽好きのチームが、世界のクラシック音楽愛好家のためにデザインした。

 あらゆるタイプのクラシック音楽好きのニーズを満たすべく、ターゲット検索、ガイド付き発見、専門家によるお勧めなどが提供され、世界最大のクラシック音楽カタログと、ストリーミングで利用可能な最高クラスの音質で提供されるのが特徴となっている。

 それにしても、なぜクラシック音楽にだけ専用のサービスが必要なのだろうか。

Apple Music Classical サブスク クラシック アプリ サービス クラシック音楽に特化した「Apple Music Classical」の画面。再生画面だけを見ると、これまでのApple Musicと変わらないように見えるが、実は個々の曲に、従来のアプリでは区別していなかった多彩な詳細情報が追加され、曲が探しやすくなっている

 理由はいくつかあるが、筆頭はクラシック音楽好きと言われる人たちの音楽の楽しみ方の幅の広さだろう。

 アプリの開発にあたって、Appleに協力したというRadioheadのジョニー・グリーンウッド氏は「簡単に言うと、ジョニ・ミッチェルの『Blue』の録音は1つしかないけれど、『ラプソディ・イン・ブルー』には何千もの録音があります。クラシック音楽に興味を持ったばかりの人にとって、このような最初の検索は、とても不快で困惑」という言葉で説明する。

 演奏者や歌手と曲名だけで聞きたい曲が見つかる他のジャンルと異なり、クラシック音楽愛好家は演奏家で選んで曲を楽しむ人もいれば、作曲家で音楽を楽しむ人、時代ごと、楽器ごと、ムードごとと曲選びの入り口が圧倒的に多く、これまでの音楽配信サービスの楽曲に組み込まれていた曲の特徴を表すデータだけでは、リスナーの要求に応えることができなかった。

Apple Music Classical サブスク クラシック アプリ サービス 同じベートーベンのピアノ協奏曲第5番にしても、何人もの人が演奏している。Apple Music Classicalでは、曲を検索するとその曲の解説が表示され、その下にエディターによるオススメや関連する人気の演奏などがトラック数の数とともに示される

 グリーンウッド氏らが指摘した問題を解決するにあたって、Appleは1曲1曲に付随するデータの構造そのものを見直し、これをアップデートすることから作業を始めた。登録された500万以上の曲に対して、作曲家/種別/作品タイトル/ニックネーム/作品番号/時代/使用楽器といった細かなデーターを追加したという。

 クラシックの世界ではバッハのBWV(バッハ作品目録)やモーツァルトのK(ケッヘル番号)のように、多くの作曲家が独自の特別な作品番号を使っているが、Apple Music Classicalではこの複雑さを考慮し、作曲家/作品/作品番号/指揮者/アーティスト/楽器/作品の通称など、あらゆるキーワードの組み合わせで、ユーザーが求めているものを瞬時に提供できるように検索機能を再設計しており、検索すると、その作品の全ての録音に加え、エディターが選んだ録音が表示される。

 約2万人の作曲家、11.5万種類の作品、35万の楽章が登録された約500万曲のライブラリーに対して、登録されたデータ量は5000万に及ぶという。

 数で言えば、曲数の10倍で1曲あたり10データと少ないようにも見えるが、実は作曲家のドミートリイ・ショスタコーヴィチ氏の作品を探したい場合、英語での表記の「Shostakovich」で探す人もいれば、オランダでは「Sjostakovitsj」、ロシアではロシア語と複数のつづりに対応していないと検索できない人が出てくる。

 Apple Music Classicalのデータは、こういった表記の揺れなどにも対応しているという。日本でのリリースが遅れていることを残念がる声も多いが、おそらく「ショスタコビチ」、「ショスタコビッチ」など同じ言語内でも多数の表記が存在する日本語特有の問題に対処しているのが原因だろう。

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