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Microsoftのイベントと「AI PC」で一気に上昇する要求スペック 大きく変化するAI PC時代のPC選びWindowsフロントライン(4/4 ページ)

» 2024年05月20日 12時30分 公開
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トレンドが大きく変化したPCハードウェアの世界

 WindowsというOSがあり、このOS上で動作するアプリケーションを実行できるだけのスペック……というのが、これまでのPCハードウェアの位置付けだった。

 現在、ユーザーが望むアプリケーションの処理の幅は数年前と比較しても広がっており、その実行環境であるOSもまたその変化の波にある。OSが変化したのであれば、ハードウェアに求められる要求もまた変化する。現在PCの世界は、10年あるいは20年単位でやってくる大きなトレンドの変化に直面しつつある。

 まず、AIというニーズに特化したNPUという処理機構の標準搭載だ。スマートフォンなどでは数年前から既に顕在化していたものの、Intelでいえば「Core Ultra」の名称でリリースされている“Meteor Lake”(開発コード名)の世代で初めて採用された。

 もう1つはメモリの問題で、これまでWindowsの実行では長らく最低ラインとされてきた「4GB」の壁が一気に「16GB」まで拡大された。帯域も重要で、おそらく少し先の時代ではDDR5以上が標準とされるのだろう。

 実はこれに関して興味深いトピックが2つある。1つは先日のイベントで発表されたiPad Proに搭載される「M4チップ」で、もう1つはIntelの次期モバイルプロセッサである「Lunar Lake」のリーク情報だ。

 まずM4だが、SoC内のNPUが(Apple Siliconで)前モデルのM3に比べて大幅に強化されており、18TOPSから38TOPSへと大きくジャンプしている。他方で、トランジスタ数はM3が250億なのに対し、M4では280億と、NPUにおける性能ジャンプを説明できるほどには伸びていない印象がある(性能はある程度トランジスタ数に依存する)。

 これに関して、先日西川善司氏が自身のYouTubeライブで興味深い指摘をしており、NPUのアーキテクチャ変更があり、推論エンジンに特化する形で改良が加えられたのではないかとの推察をしていた。

 推論エンジンでは、行列の積和で利用される浮動小数点の数値形式において「○.○○×10^△」で示される仮数(○.○○)の精度よりも、パラメーターの複雑性に対応できる指数(△)の数字が大きい方が重要という傾向があり、実際に通常の16bit浮動小数点(FP16)よりも精度を落とした「BF16」であったり、整数型であるINT8よりも小さいINT4などのサポートを行う処理プロセッサが登場するなどしており、こうした機能追加が行われたのではないかという考えだ。

 一度に処理するデータが半分になれば、単純計算で倍のパフォーマンスが出るので、処理の実行数をカウントする「TOPS(Tera Operations Per Second:単位秒あたりに何兆の命令を実行できるか)」もまた一気に倍加するわけだ。

5月7日に開催されたAppleイベントで明らかになったM4チップのNPU 5月7日に開催されたAppleイベントで明らかになったM4チップのNPU
M4チップ搭載のNPUは38TOPS。M3世代の倍以上だ M4チップ搭載のNPUは38TOPS。M3世代の倍以上だ
M4チップ全体では280億トランジスタだが、これはM3世代の250億トランジスタから1割強程度しか伸びていない M4チップ全体では280億トランジスタだが、これはM3世代の250億トランジスタから1割強程度しか伸びていない

 もう1つはIntelのプロセッサに関するリーク情報だ。Meteor LakeがNPUの性能面でライバルと比較して不利だというのは何度か触れているが、Intelでは次世代のLunar LakeでAI性能において現状の3倍(34TOPSから100TOPS)へと向上すると述べており、おそらくは同プロセッサを搭載したノートPCが出荷される2025年以降に期待を込めてアピールしている。

 このLunar Lakeについて、「Core Ultra 5 238V/234V」の型番とされるプロセッサの詳細スペックがリーク情報として出回っており、その中に「16GB/32GB On-Package LPDDR5x Memory」という表記がある。つまり、メインメモリがパッケージに封入される形となり、16GBと32GBの2タイプでSKUが分かれている。

 推測だが、これはApple SiliconのUnified Memoryに近いもので、拡張性が制限される反面、メモリの帯域幅が拡大して高速アクセスが可能になると考えられる。前述のように、ローカルLLMの快適さを決めるのは「メモリ容量と速度」であり、ノートPCのメモリ容量の最低ラインを16GBに設定しつつ、より高速アクセスを可能にして「AI PC」に最適化した形を模索しているのではないか。

 Lunar LakeとArrow Lakeの世代では、長年に渡ってサポートされてきたHyper-threading Technologyが削除されることになるが、Meteor Lakeの世代に比べても、よりNPUを含む周辺プロセッサに処理の比重が移りつつあることがうかがえる。

 このように、2024年後半から2025年以降に登場するPCは、そのアーキテクチャがAI PCに特化する形で変化していく。おそらくだが、ミドルレンジ以上のPCはその傾向がより強くなるだろう。

 一方で、従来ながらのPCアーキテクチャも変わらず併存していく時代がしばらく続き、少なくとも2025年10月14日にやってくるWindows 10の延長サポート終了から、Windows 11の“次”の世代のOSが登場するくらいまでは、アーキテクチャの移行期間になるのではないかと考える。

 AIに対応したアプリケーションのニーズ次第では、要求パフォーマンスが一気に上昇する時代がやってくるわけで、PC世界が久々に大きく動く面白いタイミングになるかもしれない。

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