技術的な優位性というのは、うつろうものだ。全体を俯瞰した中で、特定のメーカーだけが特別に優秀なチップを作り出す、なんてことはもちろんあり得るとは思う。しかし、AppleやIntelのような巨大企業が英知を振り絞って奮起している時、それが成果としての結実するのは「技術的な優位性」よりも「コンセプト」を重視した場合に多いと思われる。
繰り返しになるが、Apple Siliconが素晴らしい成果を上げた理由はPCを“完全な”垂直統合体制で開発できる企業が他に存在しないからだ。
ただ、「どのようにすれば優れた製品が生まれるか」という見本を見せれば、それをまねることは、より簡単にできる。今回IntelがリリースしたCore Ultra 200Vプロセッサは、Appleを完全にまねるのではなくどのようにすれば自らの優位性を水平分業のPC業界で生かせるのかを考え抜いた結果だと思う。その観点から自らの技術を見直し、再構築した成果といえるだろう。
“後出しじゃんけん”のようで申し訳ないが、こうなってくるとMicrosoftが提唱する「Copilot+ PC(新しいAI PC)」をターゲットに、同社と組んで「Snapdragon Xシリーズ」を用意したQualcommが少々気の毒になってくる。
必ずしも彼らの責任ではないが、Qualcommのソリューション(アーキテクチャ)にはGPUコアにAI処理を高速化するための仕組み(機能)はない。CPUコアには機械学習向けの命令セットが用意されているものの、同社のSoCにおけるAI処理の“主役”はNPUだ。
AMDの「Ryzen AI 300シリーズ」を含めて一通りのプレーヤーがそろった所でSnapdragon Xシリーズを評価すると、ワッパは決して最高とは言いきれない。バッテリー駆動時間の長さは確かに評価できるのだが、高負荷の処理が続くと競合の方がワッパ面で有利になるからだ。これではWindowsを「Armアーキテクチャで動かすために必要なカロリー」がもったいない気がしてしまうのは、筆者だけだろうか。
これはPCジャンルにおけるQualcommの経験値の低さもあるだろうが、パートナーとして協業していただろうMicrosoftが基本的に「ソフトウェア企業」だから致し方ないともいえる。
翻って、AMDもRyzen AI 300シリーズの次世代においてモバイル向けAPUの方向性を見直す必要が出てくるだろう。半導体業界の性質上、見直しに入って翌年にそれを反映するのは困難だろうが、Intelが1つの“方向性”を見いだしたということは、業界全体が変化に向けて動き始めているのは間違いないだろう。
Intelの半導体製造拠点への大規模投資も、そろそろ成果が出始める頃だ。思い起こせば、かつてのエキサイティングだった「Intelの時代」は、同社がイニシアティブを取ることで進化を加速していた側面もあった。
この点において、Intelは最終製品のためにしか半導体を作っていないAppleとは決定的に異なる。Appleのシリコンは業界全体を加速させる事はないが、Intelは業界全体をけん引することができるからだ。
そうした意味で、Core Ultra 200Vプロセッサの登場は、単なる新製品の発表以上の意味を持つ。AI時代のコンピューティングを彼らが強力にけん引するならば、PCプラットフォームはもっと興味深いものになるだろう。
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