PC業界はここ数日、Intelが発表したCore Ultraプロセッサ(シリーズ2)のモバイル向けモデル「Core Ultra 200Vプロセッサ」(開発コード名:Lunar Lake)に関する話題で持ちきりだ。
同社が「Core Ultraプロセッサ」という新ブランドを打ち出してちょうど1年が経過したことになるが、その時よりも、むしろ今回の方が発表内容のインパクトはずっと大きい。
以前からアーキテクチャの概要は明らかになっていたCore Ultra 200Vプロセッサだが、そのラインアップが公開されたのは今回が初めてとなる。詳細と全体像を見渡すと、AI(人工知能)時代に向けた同社の野心的な戦略を体現したプラットフォームとなっていることが浮かび上がる。
AIへの対応という観点では、Qualcommの「Snapdragon X Elite」「Snapdragon X Plus」やAMDの「Ryzen AI 300プロセッサ」が先行しているが、これらが新世代のNPU(Neural Processing Unit:推論プロセッサ)のパフォーマンスを前面に出しているのに対して、Intelは高性能NPUの開発だけでなく、技術の“コア”ともいえるCPUアーキテクチャも含めた、システム全体に渡る設計の見直しを図っている。Apple Silicon並みの高効率と、WindowsノートPC向けとしては最高クラスの性能の両立を実現した格好だ。
Core Ultra 200Vプロセッサの特徴を俯瞰(ふかん)すると、最新のApple Siliconである「Apple M4チップ」と似ている点もある一方で、決定的に違うポイントもある。この記事では、Apple Silicon(特にM4チップ)との「類似点」と「差異」に焦点を当てつつ、Core Ultra 200Vプロセッサのプラットフォームとしての可能性と、今後のPCの進化の可能性を考えていきたい。
Core Ultra 200Vプロセッサの技術全体を見てみると、システムアーキテクチャを設計する際に、ターゲットとするシステムを変えたことを強く感じる。
IntelのCPUは、目的ごとにさまざまな製品レンジやブランドが存在している。しかし、昨今の同社は幅広いレンジを1つの(あるいは極めて近い)コアアーキテクチャでカバーする“万能型”設計を取る傾向にある。サーバやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けから一般消費者向けPC、薄型タブレットPCまで、幅広くサポートしているという印象だ。
近年、同社でも「Pコア(パフォーマンスコア)」「Eコア(高効率コア)」という、Armアーキテクチャでいうところの「big.little」のコンセプトが取り入れられ、サーバ/HPC向けとコンシューマー向けローエンド製品を除き、ヘテロジニアスなCPUへと“変貌”していたIntelのCPUだが、その軸足は常にシステムのスケーラビリティーに置かれていた。
2023年にリリースされた「Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)」(開発コード名:Meteor Lake)は、統合型プロセッサ(SoC)として「モバイル特化」「NPU搭載」という点にフォーカスした点が目新しかったものの、アーキテクチャ全体で徹底しきれていなかったことは否定できない。
しかし、Core Ultra 200Vプロセッサは、モバイルデバイスへの適応性を高めるべく「電力効率の改善」と「AI処理能力の最大化」に主眼を置いている。
電力効率の面では、基本消費電力(PBP)は17Wまたは30Wという設定だが、17W設定のモデルでは最小消費電力を8Wとすることもできる。これにより、メーカーはより小型/薄型のデバイスの開発がしやすくなる。
新しいCPUコア「Lion Cove(Pコア)」「Skymont(Eコア)」(いずれも開発コード名)は、シングルスレッド性能と電力効率の向上に焦点が当てられている。特にPコアはマルチスレッド(SMT/ハイパースレッディング)機能を削るという大胆な決断をしていることからも分かる通り、「既存の技術を改良して新しいものを作る」というより、「既存技術を見直して再構築する」というアプローチを取っている。
新しい「Xe2アーキテクチャ」を採用するGPUコアも、行列演算性能を高める「XMX(Xe Matrix Extension)エンジン」を搭載することで、AI処理のようなグラフィックス描画“以外”における活躍の場を広げている。
CPUコア、GPUコア、そしてNPUそれぞれがAIワークロードに対し、効率的に処理する命令と回路を搭載しているため、AIのピーク処理性能はシステムトータルで最大120TOPSに達する。合計値としての処理能力の高さもあるが、処理の内容や目的に応じて適切なプロセッサを使い分けられるということの意味も大きい。
Intelによると、Core Ultra 200VプロセッサはSoC全体のパフォーマンスが向上したにも関わらず、Core Ultraプロセッサ(シリーズ1)に対して最大で40%も消費電力を削減したという。おおむね、消費電力当たりの処理能力(いわゆる「ワッパ」)はApple M3ファミリー相当にまで高まっているようだ。
重要かつ負荷の高い処理に対し、専用の命令セットや専用プロセッサを追加しつつ、それぞれの処理回路の汎用(はんよう)性を引き上げて、システム全体の効率を高める――このアプローチは、Apple Siliconの設計方針との類似性が見られる。しかし、ワッパの大幅な改善は、そもそもの設計の見直し(一新)による着実な成果といえるだろう。
一方で、IntelはApple Siliconの“良い部分”はしっかりと取り入れつつも、あくまでも“PC向け”のSoC(CPU)という位置付けで、応用範囲の広さや適応できるシステム形態の柔軟性も確保している。
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