生成AIにおいて、学習済みのモデルを利用するケースならCPU/SoCに統合されたNPUが効力を発揮する。しかし学習そのものの作業は、今なおパフォーマンス面でGPUの“独壇場”となっている。
一方で、学習に利用できるレベルのGPUやメモリリソースを個々のPCに用意するのは、コスト面や可搬性の面からも現実的ではないケースもある。そこでHPが新たに提案するのが「HP Boost」だ。
簡単にいうと、HP Boostはデスクトップワークステーションに装着したGPUのリソースを社内(同一ネットワーク内)の別のPC/ワークステーションから“借用”できるサービスだ。主にデータサイエンティストなどが利用することを想定しており、普段は可搬性の高い軽量モバイルノートPCなどで作業を行いつつ、学習/分析作業でGPUリソースを利用したい時にワークステーションへとアクセスすることで学習/分析パフォーマンスを向上できる。
この他、以前より同社がアナウンスしている「HP AI Studio」のソリューションに、ビジネスに有用なAI開発を支援する「Gen AI Lab」「AI Creatin Center」に改めて触れると共に、PCのCPU/SoCにあるNPUを活用して動作する「AI Companion」と「Poly Camera Pro」の機能についても紹介された。
AI CompanionやPoly Camera Proについては、ピーク性能が40TOPS以上のNPUを備える、いわゆる「新しいAI PC(Copilot+ PC)」の要件を満たすHP製ノートPCを対象としている。
AI Companionは、PC内のローカルファイルや情報を活用して各種作業を支援したり、トラブルシューティングを行ったりする機能だ。Poly Camera Proは、ビデオ(Web)会議で使うWebカメラの各種エフェクトをNPUにオフロードすることで高効率かつ低消費電力で行う機能となる。先述のHP Boostと組み合わせると高度な分析処理も可能となるため、PCの利用の幅が広がるというのが狙いだ。
また、同社が業界初という「Remote Remediation Service」により、リモートでありながらUEFI(BIOS)より下の階層でのトラブルシューティングが実現する。これにより、従来ならIT部門スタッフ(情シス)や業者の出張作業(または引き取り後の作業)が必要だった問題、例えばBSoD(ブルースクリーン)への対応も、リモートで行えるようになるため、作業負荷やダウンタイムが軽減され、結果として生産性が向上するメリットがあるという。
このように、さまざまなAI活用による業務改善の例が紹介された今回のイベントだが、実は筆者が最も興味を持ったのは「HP Print AI」と呼ばれる同社製プリンタ向けの新機能だ。
以前に比べると「プリンタの使用頻度はだいぶ減った」いう人も多いと思う。個人事業主である筆者も、年に数回程度しかプリンタを利用する機会がなかった。そのため、つい先日に行った引っ越しを機に、プリンタとFAXを廃棄して、コンビニでのネットプリント利用にシフトししてしまった。
一方で、PDFを含む「情報の一覧が可能な出力」という観点では、“印刷”の仕組みはいまだに利用機会が多い。Webページのスクラッピングから、そのまま印刷が可能な提出用フォーマットによる書類作成まで、A4用紙に収まる形式での出力は、今でも頻繁に行っている。ただ、例えばWebページを印刷する場合は、元が画面出力を想定していることもあり、レイアウトからフォントサイズまで印刷に最適化されているとは言い難い。
そこで登場するのが、HP Print AIだ。生成AIによる対話インタフェースを用いることで、レイアウトを印刷に最適な形にして出力してくれる。
気に入ったレシピがWebサイトに掲載されていて、これを保存しておくために印刷しようとしたところ、文章や写真が印刷上適切な形では配置されておらず、無駄なページを大量に出力してしまった――そんな経験をしたことがある人もいるだろう。
ここでHP Print AIを使うと、ページ内容を理解し、ユーザーのプロンプトによる指示に合わせて、印刷に最適な形での出力を提案してくる。例えば写真を多めに配置したり、テキストの部分にレシピのポイント(要点)や作業手順のみを箇条書きで抜き出したり、要点を見やすく再配置したりといったことができる。
印刷に最適化されたレイアウトとなるため、無駄なページを印刷することもなくなる。
同様の悩みは、作業用にスプレッドシートを広く使いたい一方で、出力となるとさらなる調整が必要な表計算アプリ(Excelなど)でも生じがちだ。普通に印刷すると無駄が多くなりがちなので、オブジェクトやチャートを手作業で再配置する必要になる。
しかし、これもHP Print AIが最適化して、印刷に適した出力を提案してくれる。インクを無駄遣いしないための省力印刷などの指示も可能で、印刷ツールとして非常に有用だ。
強いて難点を挙げると、本機能は英語のドキュメント類を想定しており、日本語を含む他言語への対応はそれほどなされていない。また、本機能は最新のHPプリンタのデバイスドライバに統合されているため、利用するには同社製プリンタの購入が必要となる。生成AIを用いたグリーティングカードの作成機能なども提供されるが、素材がまだ米国向けのものが中心だ。
今後は、米国を中心とする英語圏“以外”への最適化が課題となる。
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