ミドルレンジの新GPU「Intel Arc B570」を試して分かったこと ゲーミング/動画処理の入門にお勧めだがネックは?(3/3 ページ)

» 2025年01月16日 23時45分 公開
[井上翔ITmedia]
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Procyon Computer Vision

 続けて、ULの総合ベンチマークテストソリューション「UL Procyon」を使って、GPUベースのAI(人工知能)処理に関するテストを行う。

 まず、画像認識のパフォーマンスを試す「AI Computer Vision」テストを実施した。本テストでは演算精度を3種類(Intenger/Float16/Float32)から、利用するAPIをWindows版では4種類(Direct ML/TensorRT/OpenVINO/SNPE)から選択できるが、今回は全ての演算精度をWindows MLとOpenVINOを使ってテストを行った。スコアは以下の通りだ。

  • Direct ML
    • Arc B570
      • Intenger(整数演算):180ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):1238ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):661ポイント
    • Arc B580
      • Intenger(整数演算):196ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):1316ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):735ポイント
    • Arc A580
      • Intenger(整数演算):212ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):443ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):447ポイント
  • OpenVINO
    • Arc B570
      • Intenger(整数演算):2386ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):1752ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):773ポイント
    • Arc B580
      • Intenger(整数演算):2613ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):1908ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):855ポイント
    • Arc A580
      • Intenger(整数演算):1306ポイント
      • Float16(16bit浮動小数点演算):947ポイント
      • Float32(32bit浮動小数点演算):460ポイント

 基本的にスコアはArc A580よりも高く、Arc B580よりも低いという結果だ。Arc B570は、Arc B580比で6〜10%パフォーマンスが低い。3Dグラフィックス関連のテストと傾向は変わらないのだが、スコア(パフォーマンス)差は少ない。

 API間の比較では、Intelにとって事実上のネイティブAPIであるOpenVINOを使うとパフォーマンスが改善する。

 ところで、Direct MLを使うと整数演算だけは旧世代(Arc A580)の方が高スコアという現象は前回と同様だ。これは何度テストを繰り返しても変わらなかった。

結果 Procyon AI Computer Visionの結果

Procyon AI Image Generation

 続けて、Procyonに内包されている画像生成AIのパフォーマンステスト「AI Image Generation」を試してみた。このテストでは生成AIモデルとして「Stable Diffusion」を使っており、今回はOpenVINO APIによる軽負荷の「INT8」テストと、中負荷の「FP16」テストを実施した。スコアは以下の通りだ。

  • INT8(8bit整数)テスト
    1. Arc A570:7677ポイント
    2. Arc B580:9657ポイント
    3. Arc A580:5162ポイント
  • FP16(半精度浮動小数点数)テスト
    1. Arc A570:1177ポイント
    2. Arc B580:1487ポイント
    3. Arc A580:833ポイント

 やはりArc A580よりも高く、Arc B580よりも低いスコア……ではあるが、その差は約21%になった。Xeコアの数だけでなく、グラフィックスメモリの容量や帯域幅の差が大きく影響したものと思われる。

結果 Procyon AI Photo Generationの結果

Procyon Video Editing

 最後に、メディアエンジンの性能を試すべくProcyonに内包された動画編集テスト「Video Editing」を実行してみた。本テストは「Adobe Premiere Pro」を使って動画の作成に掛かった時間からスコアを算出するのだが、今回はGPUアクセラレーションを“オン”にした上で、スコアではなく処理にかかった時間を比べてみよう。結果は以下の通りだ(★印が付いているものはGPUアクセラレーション有効)。

  • フルHD/重量★
    • Arc A570:44.1秒
    • Arc B580:39.9秒
    • Arc A580:33.4秒
  • フルHD/軽量
    • Arc A570:38秒
    • Arc B580:34.3秒
    • Arc A580:29.6秒
  • 4K/重量★
    • Arc A570:92.1秒
    • Arc B580:82.8秒
    • Arc A580:76.7秒
  • 4K/軽量
    • Arc A570:84.6秒
    • Arc B580:77.4秒
    • Arc A580:69.8秒

 前回のArc B580のテストでは、先代のArc A580よりも書き出しが遅いという現象が発生した。この状況に変わりがないとすると、Arc B570の書き出しはArc B580と同じか、さらに遅いという結果が予想できる。

 実際に試してみたところ、上記の通りArc B580よりもさらに遅くなってしまった重い処理がCPU処理よりも圧倒的に高速であることに変わりはないのだが、この結果はどうしても気になってしまう。Premiere Proかグラフィックスドライバがこなれると、より高速になるのだろうか……?

結果 Procyon AI Video Editingの結果(プロジェクト1が重量テスト、プロジェクト2が軽量テスト)

消費電力は?

 Intelは、Arc B500シリーズの「ワッパの良さ」を強くアピールしている。しかし先述の通り、最大消費電力だけを見ると、GeForce RTX 40シリーズと比べると不利であることは確かだ。

 実際のところどうなのか、システム全体の消費電力を比較してみよう。今回は先のベンチマークテストで使ったシステムで「アイドル状態」の時の最小消費電力と、3DMarkのTime Spy Extremeを実行している際の最大電力をワットチェッカーで計測した。結果は以下の通りだ。

  • Arc B570
    • アイドル時:75W
    • 最大時:316W
  • Arc B580
    • アイドル時:75W
    • 最大時:320W
  • Arc A580
    • アイドル時:85W
    • 最大時:377W

 今回テストしているのはOCモデルだ。ゆえに「下手したら定格通りのArc B580よりも消費電力大きくなるのでは?」と不安だったのだが、僅差ではあるもののArc B570はArc B580よりも少し消費電力を抑えられている

 GeForce RTX 4060と比べると、アイドル時の消費電力が高いことは確かだ。ただ、Arc Graphicsの世代間比較ではワッパは確実に改善している。GeForce RTX 4060と比較する場合は「買うときの価格を重視するのか、それとも運用コストを重視するのか」という“てんびん”になりそうだ。

消費電力 消費電力の比較

日本価格は少し高い? 4万円を切れば間違いなく“お買い得”

 ASRock Intel Arc B570 Challenger 10GB OCを通してIntel Arc B570 Graphicsの実力をチェックしてきた。処理にもよるが、Arc B580と比べるとパフォーマンスは1〜2割減となるものの、「フルHDを中心に、ゲームによってはWQHD」という感じで楽しむには十分な性能は備えている。ゲーミングPCの入門用GPUとして適任だ。

 そうなると気になるのはグラフィックスカードの価格だ。想定価格は米国の税別で219ドル(約3万2800円)、日本の税込みで4万円台半ば〜5万円弱となる。Arc B580を搭載するグラフィックスカードの実売価格は5万円前後であることも考慮に入れると、為替レートや流通/サポートコストを鑑みなければいけないとはいえ、日本の価格は“やや高め”なようにも思える。

 せめて、4万円台を切る価格で購入できれば、かなりコストパフォーマンスに優れたゲーミングGPUになるのだが、しばらくは難しいだろうか……。悩ましい日々が続きそうだ。

機材協力:インテル株式会社

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