米ラスベガスで毎年1月に開催される「CES」。かつては「International Consumer Electronics Show」の略称で、その名の通り「世界規模のコンシューマー向け電化製品の見本市」として機能していた。
しかし、IT産業やモビリティー産業が深く絡み合い、ハードウェアの性能やデザインだけではなく、ソフトウェアやクラウドサービスとの連動性を重視した発表が増えて展示内容が多様化したこともあり、2018年からは略称のCESを“そのまま”正式名称に据えている。多様な技術を組み合わせ、相互にネットワーク化されている中で市場が構築されているという現実を踏まえた変化ともいえる。
2024年のCESは、イベント全体を貫くキーワードとして「Software Defined(SD)」という概念が明確にあった。SDとは、その名の通り「ソフトウェアによって定義付ける」という意味で、ハードウェアの設計や機能を根本的に見直して、ソフトウェアと通信、そしてクラウドサービスを軸に組み立てていくという考え方だ。
先日閉幕した「CES 2025」では、このSDという考え方は一般的になった。そして、そこから一歩進んで「AI Defined」、つまりAI(人工知能)が軸となる概念という次のステップに進んでいるように感じた。もちろん、AIもソフトウェアの一種に他ならないが、「機能価値をどのように定義するか?」という観点で考えた時に「AI!」と即答できる展示が多かったことは確かだ。
昨今の自動車産業では、「SDV(Software Defined Vehicle)」について、各社がさまざまな解釈と戦略の元に価値の創出を目指してきた。
その名の通り、SDVは車両の機能や価値を決める主要な要素がソフトウェアという前提で企画された自動車のことだ。
かつての自動車では、機能や価値の中核は車体設計技術にあった。自動車において「プラットフォーム」といえば車体設計のことを指すことからも、それは明らかだ。
それに対して、SDVでは自動車の各所に散らばっていた「ECU(電子制御ユニット)」を中央集権的なコンピュータに統合した上で、そこで動かすソフトウェアに機能価値を持たせようという考え方に立っている。大きな処理能力を持つ中央チップ(SoC)を軸に、アーキテクチャやソフトウェアが構築され、クラウド(外部ネットワーク)との連携を前提としていることが特徴だ。車内エンターテインメントシステムはもちろんだが、走行時の気分を盛り上げる音の演出やハンドリングの演出など、あらゆる“体感”要素がソフトウェアでコントロールできる。
PC専門メディアであるITmedia PC USERの読者の皆さんとしては、こうしたことは「当たり前」と感じるかもしれない。しかし、例えば外部ネットワークを介した「OTA(Over-the-Air)」によるソフトウェアの更新1つを取っても、自動車の領域は安全性やリスク管理に対する考え方や基準は異なる。運転支援機能の改善、パフォーマンスチューニングやセキュリティパッチの適用を随時可能とすることは、法規制との関係性を考えれば“大胆な一歩”なのだ。
しかし、ソフトウェアがモジュール化され、ネットワークを介して機能のオン/オフを簡単に行えるようになれば、「ユーザー単位で必要な機能だけをオンとしする」「追加機能を使う場合はサブスクリプションや追加購入を求める」といった形で、ビジネスモデルの幅を広げられる。
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