Appleは2月20日、ベーシックグレードのスマートフォン「iPhone SE」シリーズを廃止し、その代わりに最新チップ(SoC)を搭載したiPhone 16シリーズのベーシックグレードとして「iPhone 16e」を発表した。2月28日に発売される予定だ。
同社の意図は、iPhoneのラインアップにおける「Apple Intelligence」の展開拡大にあることは明白だ。世間的には「iPhone SE」の事実上の後継モデルがiPhone SEを名乗らなかったことに注目が集まっているが、iPhone 16eの隠れた注目点として、Appleが独自設計したセルラーモデムが初めて搭載されたことも見逃せない。このことは、中長期的にはiPhone SEシリーズがiPhone 16eという製品に置き換えられたことよりも、ずっと大きな意味がある。
【修正:2月22日22時10分】初出時、「端末メーカーがセルラーモデムまでを開発している例はなく」としていましたが、実際はSamsung ElectronicsやHuaweiなどが自社設計モデムを有するメーカーも複数あるため修正いたします。
Apple初のセルラーモデムは「Apple C1」という名称が付けられた。「C」は「Cellular(セルラー)」を意味するのだろう。セルラーモデムは5G NR(5G)やLTEといったモバイル通信(携帯電話)ネットワークの基地局と交信するためのモデムで、スマートフォンやモバイル通信に対応するタブレットはもちろん、最近では一部のWindowsノートPCにも搭載されている。
Apple C1は複数のチップ(半導体)や部品で構成されており、同じく自社設計のSoCである「Apple A18チップ」と協調動作するソフトウェアなどと共に、極めて複雑なシステムを作り上げている。Appleによると、Apple C1は従来の5Gモデムと比べて最大25%の消費電力低減を実現しただけでなく、GPSを始めとする測位衛星との通信機能、そして昨今のiPhoneの特徴でもある衛星経由の緊急SOS発出機能なども統合している。将来的には、さらに幅広いワイヤレス通信技術を統合していく可能性もある。
QualcommやIntelといった他社に依存していたセルラーモデムを自社設計とすることで、Apple自身が今後のiPhoneの進化をコントロールしやすくなる。Apple C1の登場は今後、Appleの自社開発のSoCがもたらしたインパクトと同等のパワーを持つ可能性がある。
先述の通り、Apple C1モデムは単一のチップではない。複数のチップに部材、そしてソフトウェアまでも包括している。スマートフォンのモデムはSoCと協調して動作するが、Apple C1もその点は同様で、A18チップとコミュニケーションを取りながら通信を行う。さまざまな要素が連携して動く、オーケストラのようなシステムだと思えばいい。
オーケストラは、編成が変化すれば演奏も変化する。それと同様に、Apple C1の技術を調整したり拡張したりすれば、幅広く柔軟にさまざまな無線技術へと対応できる。例えば、今回のiPhone 16eは測位衛星との通信や衛星経由のSOS機能には対応した一方で、5Gにおけるミリ波通信やUWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)通信機能には対応していない。
しかし、このことはApple C1が「ミリ波やUWBに対応できない(しない)」ということを意味しない。製品の特性によってはミリ波やUWBにも対応する構成を用意する可能性もある。
さて、Appleによると、iPhone 16eに内蔵されたApple C1によってiPhone 16eは大幅なバッテリー駆動時間の改善を果たしたのだという。公称では、ビデオ再生で最長26時間(ストリーミング時は最長21時間)で、普段使いでも「iPhone 11」比で最長6時間、全世代のiPhone SE比で最長12時間駆動時間が増えたという。
、このように駆動時間が大幅に延びた理由の1つとして、Apple C1を構成するチップに最新のプロセス技術を採用したことが挙げられる。
セルラーモデルは、通信に関わる信号処理を行う「ベースバンドチップ」と、アナログの電波信号を扱う「RFトランシーバー」に大別できる。Apple C1では、RFトランシーバーには7nm、ベースバンドチップには4nmの製造プロセスを適用している。中でも、5G対応モデムのRFトランシーバーに7nmプロセスを採用するのは業界初の試みだという。また、信号処理回路とは統合せずにあえて分離し、先端プロセスを適用することでエネルギー効率が高まったという。
高度なプロセス技術により、特に5G接続時における電力消費を大幅に削減することが可能になっている。
しかし、省電力化はチップの改良だけで達成したわけではない。A18チップではApple C1を構成するベースバンドチップとの間の接続インタフェースの最適化を行っており、電力管理やサービスのオフロードを効率的に行っている。このような協調動作は、従来のサードパーティー製のモデムでは不可能だったという。
システムの状態に合わせ、より積極的かつ細かやかな制御を行うことで効率的な動作を実現したのだ。
当然ながら、これらシステム全体の連動性を決めるのはOSや各部のファームウェアだが、Appleがこれらを独自開発しているということは大きく、状況に応じた動的な電力制御システムが実現している。
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