Sonos(ソノス)は2002年の創業以来、マルチルームオーディオのパイオニアとして独自のポジションを確立してきた企業だ。日本への参入が2018年と遅かったこともあり、新興メーカーのように受け取られる場合もある。しかし、同社はネットワーク/無線技術に早期から着目し、ソフトウェアとハードウェアを緊密に統合したエコシステムの構築を戦略の核に据えた“新世代のオーディオ価値”を真っ先に追求してきたベンチャー企業だ。
そう聞くと「シリコンバレー的なテクノロジー企業」かと思うかもしれない。確かに、Sonosはシリコンバレーを擁する米カリフォルニア州で生まれた企業だが、ハリウッドにほど近いサンタバーバラで生まれた企業だ。音楽や映画といった文化に近い場所で、ユニークなオーディオ専業メーカーとして歩んできた。
そんな同社が1月、最新のフラグシップサウンドバー「Sonos Arc Ultra」を発売した。ユーザーフレンドリーで、オーディオを手軽かつ高品質に楽しむためのさまざまな仕掛けと、将来的にワイヤレスでシステムを拡張できる技術的なバックボーンを備えている。直販価格は14万9800円だ。
この記事では、オーディオ製品としてのArc Ultraについてレポートしつつ、その背景の技術やシステムとしての発展性について書き進めたい。
Arc Ultraの音質面における核心部分は「Sound Motion」というトランスデューサー技術にある。この技術はSonosが2022年に買収したオランダMayhtの特徴的な技術を応用したもので、2つの向かい合ったダイアフラム(振動板)をX型のリンクで結びつけ、ダイアフラムがそれぞれ逆位相で動くことで、機械的振動を抑えつつ2倍のダイアフラム面積を確保して低音の再生能力を高めるというものだ。
これまでも対向型のサブウーファー構造を取るものはいくつかあったが、Sound Motion場合極めてコンパクトなスピーカーユニットに収まっていることが特徴となる。
製品の性質上、サウンドバーの“太さ”には限界がある。実用上、そして見た目において違和感のないサイズに収めつつ、低域再生の能力と質を高めるべく採用されたのがSound Motionで、先代の「Sonos Arc」と比較して低音出力性能が最大2倍に向上したという。
実際、ソニーやJBL、ゼンハイザーの上位モデルと比較視聴してみたが、サブウーファーを用いない、サウンドバー単体としては低音再生能力は圧倒的だった。比較視聴しなくても違いが分かるレベルだ。対向型ダイアフラムのため不要振動が出ず、音量を高くしても設置部付近のビビり音などが出ず、ゆがみ感も少ない。
アクション映画の爆発シーンやSF映画での宇宙船などのサウンドエフェクトでは、音場を支配する効果的な低音を出してくれるので、映像シーンに見合った迫力を感じられる。この技術は単により大きな低音を出すためのものではなく、場面に合った的確な低音を引き出してくれる。
この能力は、音楽の再生でも効果を発揮する。ベース音の輪郭が明瞭に聞こえ、低音から高音まで同時に発生するキックドラムも一体感のある音色で鳴ってくれる。いわゆる「低域の解像度」が十分に高く、音楽用としても十分に通用する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.