続いて、石黒教授は、ロボット/アバターとLLM(大規模言語モデル)の関係について次のように語った。
人と関わるロボット研究において最大の課題だった「会話機能」は、LLMの登場で大きく前進し、AIとの自然な対話が可能となった。これにより、「人間の知能とAIの違い」「AIが運動能力や感覚を持ったときに自律的に成長するか」といった新たな研究テーマが開かれた。
(一方で)AIに意図や欲求を持たせる方法も重要な課題であり、誤った設計は危険なAIを生む可能性もある。AIに意図や欲求があれば、人はそこに“意識”を感じることがある。意識の本質は未解明だが、多くの研究者がロボット開発を通してその理解を深めようとしている。意識ある存在としてのロボットは、人間との社会関係を築く可能性もある。
今後の重要な研究分野は、哲学や社会学などの文系領域だ。理系の技術で人間らしいロボットが作れるようになった今、人間の内面をどう理解するかという文系的問いが中心となる。AIやロボットは、もはや一部の専門家の専有物ではなく、すべての分野で研究や教育に活用できるツールとなってきている。
私の研究室では、私の知識/性格/言動を反映した「自分のアンドロイド」の開発が進められている。私が書いた書籍やインタビュー内容を学習させ、性格分析を通じて「本人らしい受け答え」が可能なロボットを目指している。将来的には、大学の先生はコストの問題から物理的なアンドロイドではなく、スマホ内のCGキャラクターのような形で、知の継承や教育に活用されるようになるだろう。
次に、石黒教授は「アバターと教育の関係」を語った。
これからの教育は、AIを活用した個別最適化が進み、全ての授業が個人指導型へと変わっていくと考えられる。現在の大学教育では、1人の教員が多数の学生に同じ内容を同じペースで教えているが、学生それぞれの理解度や関心は異なるため、本来は個別対応が望ましい。
その理想的な形として、教員が執筆した(論文などの)内容をLLMに学習させ、学生のスマホ上にCGアバターとして登場させることで、各自の理解度や興味に合わせて柔軟に教えることが可能となる。
この仕組みが実現されつつある分野が言語教育、特に英語教育だ。LLMを活用した英語教材は非常に優秀で、ネイティブ並みの発音で指導できる上に、発音や文法の誤りも即座に指摘/修正できる。
今後は、こうしたAIによる個別最適化学習が、言語教育にとどまらず他の分野にも広がり、教育全体のあり方を大きく変えていくと見込まれる。
一通り語った後、石黒教授は自分を模して作られたアンドロイド「ジェミノイド HI-6」と学生との対話のデモ動画を披露した。動画内のやりとりはこんな感じだ。
石黒アンドロイド こんにちは、石黒浩です。今日はどんなことについて話しましょうか。
学生 石黒先生の研究について教えて下さい。
石黒アンドロイド 僕の研究は主にアンドロイドとロボットに関するものなんです。人間とは何かを探求するために、技術を使って人間に近い存在を作り出しているわけです。
この動画の再生後、石黒教授は次のようにコメントした。
これは1年ほど前のものだが、今はさらに(やりとりの)性能が向上している。私のアバターは、私よりも正確に話すことができる。同じ質問を何度もされると、私はつい面倒になって適当な返答をしてしまうことがあるが、アバターは常に丁寧かつ正確に対応できる点が大きな強みだ。
今後、このアバターを学生の評価に活用しようと考えている。近年では学生がLLMを使ってレポートを書くのが一般的になり、筆記試験やレポートでは本当に理解しているかを見極めにくくなってきた。もちろん、筆記試験も有用ではあるが、私が本当に評価したいのは学生の表現力や理解の深さだ。理想的には、1人1人と1時間程度のインタビューを行いたいが、それは現実的ではない。
そこで、私のCGアバターを使って学生の能力を面接形式で評価する仕組みを構想している。AIとの対話を通じて、言語能力や表現力、そして深い理解を確認することが可能になる。学生がどれだけLLMを使って調べたり、私のアバターと話したりしても構わない。しかし、最終的にどれだけ学んだか、どれだけ理解したかは、このAIアバターとの対話で見抜けるようにする。これは、不正や表面的な学習を排除し、本質的な学びを促すものだ。
実際、人の能力を本当に見極めるには、対話を通じて直接確認するしかないという感覚を皆さんもお持ちだと思う。それを、今後はAIが代替するようになる。こうした技術によって、教育の現場は大きく変化するだろう。
私はこの変化を前向きに捉えており、AIが教育に果たす役割はますます大きくなると考える。アバターとの対話を通じて、学生1人1人の学びの深さを見極められる時代が、すぐそこまで来ている。
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